フェラーリF1撤退発言の裏に歴史あり 繰り返される名門の低迷と復活

田口浩次

世界中を駆け巡った撤退ニュース

1950年のF1創設時から唯一参戦し続ける名門フェラーリ。低迷と復活を繰り返し、歴史を築いてきた 【写真:アフロ】

 フェラーリ――。F1を代表する名門チームであり、誰もが知るイタリアの高級自動車メーカーである。1950年にスタートしたF1で、フェラーリは唯一創設時から参戦し続けているチームだ。創始者のエンツォ・フェラーリは、レースを戦う資金を手にするため、スポーツカーを世界の富裕層に売るビジネスを確立し、F1で輝かしい結果を出すことでブランド価値を生み出していった。

 チーム最高の名誉と言えるコンストラクターズタイトル獲得数は16回(2位はウィリアムズの9回)、ワールドチャンピオン獲得数は15回(2位はマクラーレンの12回)と、記録でも頂点に君臨している。ニキ・ラウダ、ジル・ヴィルヌーヴ、ミハエル・シューマッハ、ナイジェル・マンセル、アラン・プロスト、ゲルハルト・ベルガー、ジャン・アレジら、数々の名ドライバーがフェラーリに在籍し、あのアイルトン・セナも生きていれば最後はフェラーリで現役を引退したのでは、と言われている。F1を目指す少年から、夢をかなえてF1まで到達したドライバーまで、すべてのフォーミュラドライバーが憧れる存在がフェラーリなのである。

 先日、そんなフェラーリにまつわるニュースが世界中を揺るがした。フェラーリが「F1を撤退する!」というのだ。しかも、それを裏付ける証拠として、「フェラーリはF1を撤退してル・マン24時間レースに復帰する計画がある。まもなく、重大な発表がある」という、真実味ある話が世界中を駆け巡った。このニュースはモータースポーツ専門誌だけでなく、一般ニュースとしても大きく扱われた。報道を通じて、現在のF1が新時代のV6ターボエンジンを採用していることなどを知った人も多いだろう。つまり、F1に興味が薄れていた人や、これまでF1を知らなかった人にまで広がるほどのニュースバリューがある話題だったのだ。

「F1の将来について発言する権限がある」

 しばらくすると、フェラーリF1撤退ニュースの真相は、フェラーリ会長のルカ・ディ・モンテゼモロが、経済紙『ウォールストリート・ジャーナル』の取材で、「F1とスポーツカーを同時に進行するのは難しい。もしフェラーリがル・マンを筆頭にスポーツカーレースに参戦し、そこで素晴らしい成功を収めていたとしたら、2020年以降にF1をやめているかもしれない」という、ひとつの仮定話を語ったため、フェラーリF1撤退の発言として、世界中のマスコミが飛びついたことが明らかになった。

 騒ぎが大きくなったその週末、オーストリアGPでモンテゼモロ会長自ら、「私が撤退について発言したことはない。ただ、64年間をF1で戦ってきたフェラーリはF1の将来について発言する権限があると考えている」とコメントして、F1撤退ニュースは事実ではないと打ち消した。

 きっと、この話だけを聞くと、多くの人は「大きな会社のトップが発言した内容を、違う意味で受け取られ、拡散したため自らが火消しした」と受け止めるだろう。だが、今回のニュースの深層は、それほど単純ではない。

 今年65年目を迎えたF1において、フェラーリは長年トップチームのひとつとして君臨してきた。中でも、多くの人が知る成功は、99年から始まったシューマッハ時代だろう。少し年配の人ならば、映画『RUSH』でも話題になったニキ・ラウダを擁した70年代と答えるだろうか。しかし、本当のフェラーリの歴史は、苦しい低迷期を、強いカリスマ性を持つリーダーの力で組織を再編して成功を手にしてきた、まるで池井戸潤原作ドラマ(半沢直樹、ルーズヴェルト・ゲーム)のような、劇的復活の繰り返しである。

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