穴多いヤンキースが生き残るための条件 新エース田中はチームを支え続けられるか

杉浦大介

田中、本拠地初黒星も全15試合でQS

オリオールズ戦に登板した田中は今季2敗目を喫した。しかし全15試合でQSを果たすなど、その存在は大きい 【Getty Images】

「また本塁打で失点を先にしてしまって、その後は粘れてはいたんですけど、最後の最後に2点取られてしまいました。大事なところで粘り切れなかった……」

 ヤンキー・スタジアムで初めての黒星を喫した23日(現地時間22日)のオリオールズ戦後、会見場に登場した田中将大はそう言葉を絞り出した。これまでほとんど“常勝ピッチャー”だっただけに、見慣れない姿にファン、メディアも戸惑いすら感じたかもしれない。

 この日の田中は7回を投げて6安打、3失点、6奪三振。本拠地での初登板(4月10日)の際に一発を浴びたジョナサン・スクープにまたもソロ本塁打を許し、7回に加点され、味方の反撃を呼び込めなかった。
 これで11勝2敗、防御率は2.11となり、同1.99のスコット・カズミアー(アスレチックス)に抜かれてア・リーグ2位に陥落。2度の対決で2本塁打、5打点を稼いだスクープは、一躍“タナカキラー”として名を上げる結果となった。

 もっとも、今季2度目のオリオールズ戦でも打ちのめされたわけではないし、今季ここまでの田中の貢献度の大きさが変わるわけではもちろんない。
 開幕から全15試合でクオリティースタート(QS、6回以上を投げて自責点3以内)、先発したゲームでヤンキースは12勝3敗。投げなかった試合では、チームは負け越しという数字(27勝32敗)からも、その存在の大きさは明らかだ。

「最も感心させられるのは田中の落ち着きぶりだ。どんな状況であろうと、不振の間も、不本意な打席の際も、僕は自分の気持ちを周囲に悟られないように常に気を配っている。彼にも同じものを感じるんだよ」
 昨季2冠王を獲得したオリオールズのクリス・デービスがそう語っていた通り、ピンチで冷静さを失わない田中の粘り強さは最大の武器になっている。

 打線に定評あるブルージェイズ(18日)、オリオールズとの2度目の対戦でも及第点の投球を続け、懐疑の声は消えつつある。これから先も常に適応を強いられていくことは確かだが、その安定感と魔球スプリッターがある限り、中盤、後半戦でも大崩れは考え難いのではないか。

チームは順調にいかず、プレーオフ争い混戦

 ただ、その一方で、ヤンキースのチーム自体は必ずしも順風満帆とは言えない。C.C.サバシア、イバン・ノバ、マイケル・ピネダと開幕時のローテーションの3/5が故障離脱し、総得点でもア・リーグ15チーム中12位(6月23日現在)。それでもプレーオフ圏内にいられるのは、ア・リーグに抜きん出たチームが少ないからである。

 東地区ではブルージェイズが首位に立っているが、20日までの3連戦でヤンキースに3連敗したことが示す通り、盤石の戦力とは言い難い。ア・リーグのワイルドカード争いでも、アストロズが7.5ゲーム差、レイズが9.5ゲーム差と引き離されている以外は、10チームが6ゲーム差以内にひしめいている。このままいけば、プレーオフ争いは史上空前の大混戦となっていくかもしれない。

「終盤に逆転する能力があると示すと、物事は良い方向に向かっていくもの。10月にプレーするためには、こういうゲームをものにしなければならないんだ」
 敗色濃厚の中、ベルトランの逆転サヨナラ3ランで勝利を手にした21日のオリオールズ戦後、ジョー・ジラルディ監督はそう語っていた。

「10月」とは、つまり「プレーオフ進出」ということ。この時期にそんな言葉が出たことには少々驚かされた。さまざまな誤算に見舞われながら、39勝35敗と粘ってきたチームに指揮官は少しずつ自信を深めているのだろうか。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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