16強決めたオランダ指揮官の新たな悩み 5−3−2か、それとも4−3−3か

中田徹

仮想オーストラリア戦で4−4−2は失敗

オーストラリアにリードを許したものの、逆転でグループリーグ突破を決めたオランダ。しかし再び、フォーメーションの迷いが生じている 【写真:Action Images/アフロ】

 オランダがオーストラリアを3−2で下した。これで2連勝。早くもオランダはチリとともにグループB突破、ベスト16進出を決めた。そのオーストラリア戦に臨むにあたって、ルイ・ファン・ハール監督は悩んでいた。グループリーグ初戦で世界王者のスペインを5−1で破っていたからだ。

 オランダは強豪国相手、とりわけ初戦のスペインを想定して、ワールドカップ(W杯)前のエクアドル戦(1−1)、ガーナ戦(1−0)と2つの親善試合で5−3−2のフォーメーションを試していた。守備を固めて、カウンターに懸けるシステムだ。

 同時に、ファン・ハール監督は第2戦のオーストラリア戦に向け、別のプランも持っていた。当初、それは4−4−2だった。オーストラリアが相手なら、オランダはイニシアチブを握って試合を進められるはず。そうにらんで指揮官は6月4日のウェールズ戦を『仮想オーストラリア戦』ととらえ、4−4−2の準備も行ったのだ。

 だが、この4−4−2は失敗した。ファン・ハール式5−3−2の最も大きな売りは前線の『ゴールデン・トライアングル』、アリエン・ロッベンとロビン・ファン・ペルシの2トップ、ウェスレイ・スナイデルの1シャドーだ。ウェールズ戦でもこのユニットを崩さないために、ファン・ハール監督は中盤を菱形にし、スナイデルをトップ下に置く4−4−2を試したのだ。ところが、ビルドアップがうまくいかなかった。パスの出し手と受け手の呼吸が合わず、単純なパスミスが頻発し、ウェールズに危険なショートカウンターを食らいそうな場面も多かった。

「4−3−3ならオランダは練習しなくてもできる」

 5−3−2のエクアドル戦、ガーナ戦、そしてウェールズ戦の後半途中まで続いたビルドアップの不安定さは、78分、MFナイジェル・デ・ヨングを下げてFWクラース・ヤン・フンテラールを投入した時間から改善された。右にロッベン、真ん中にフンテラール、左にイェレマイン・レンスという3トップに変更し、お家芸の4−3−3に戻したのだ。このとき、中盤の選手たちがベンチのファン・ハール監督に向かって怒鳴るように「どんな形にするんだ?」と尋ねていたことから分かるように、4−3−3はゲームプランに入ってなかったのだろう。

「オランダでは即席で草サッカーチームを作って試合をしても、みんな無意識のうちに4−3−3のポジションに散らばってしまう」と言われるほど、このフォーメーションは彼らに根付いている。だから、オランダ人は「あそこにボールを蹴っておけばウインガーがいるはず」「こうしてボールを回して最後にウインガーへボールを出せば、そこで1対1が生まれるはず」という皮膚感覚を持っている。

 しかし、4−4−2や5−3−2では居るべき場所に人がおらず、試合中にパズルを解きながらビルドアップするような、戸惑いの現象が起こるのだ。
 
 ウェールズ戦後、オランダ人記者は「4−3−3になってからビルドアップが向上したが?」と指摘すると、ファン・ハール監督も「私もそう思う。4−3−3ならオランダは練習しなくてもできるんだ。オーストラリア戦は3トップを採用する可能性も多いにあり得る」と認めた。

チリ戦はどちらのフォーメーションで戦うか

劣勢の試合を覆したのは途中出場となったデパイの活躍によるもの。彼が入り4−3−3が機能した 【写真:ロイター/アフロ】

 今大会の初戦、オランダはスペインを5−1で破るというセンセーショナルな勝利を手にした。この望外な成功は、チーム内に「5−3−2でいける」という手応えを生み、「オーストラリア戦でもこのシステムでやりたい」という声まで出始めた。

 結局、ファン・ハール監督はスペイン戦で得た良いフィーリングを優先し、4−3−3を採用しなかった。ところが、前半のオランダには親善試合同様、居るべき場所に人がいないという現象が生まれ、ビルドアップが手詰まりになり、オーストラリア相手に防戦一方になってしまった。

「後半に入ってから、4−3−3に切り替える予定だった。しかし、ブルーノ・マルティンス・インディの脳しんとう(45分)によって、そのプランが少し早まった」(ファン・ハール監督)

 そこで投入されたのが20歳の新鋭FWメンフィス・デパイだった。オランダは右からロッベン、ファン・ペルシ、デパイの3トップによる4−3−3へスムーズに移行し、後半はビルドアップが向上した。とりわけ右センターバックのロン・フラールから、左ウイングのデパイへ出続けた、ピッチを対角に渡っていく正確なロングパスは、目視しなくてもそこに人がいるということを信じて出したパスだった。

 オーストラリア戦後、指揮官は記者会見で「われわれオランダ人にとって、4−3−3は子供のころからずっとやり続けて、誰の身体にも染みついたシステムなんだ」と外国人記者に語った。

 オーストラリア戦の後半、オランダが4−3−3でノッキングを起こさずサッカーをし、劇的な逆転勝利を飾ったことで、チリ戦をどちらのフォーメーションで戦うか、指揮官に再び迷いが生まれたはずだ。すでにグループリーグ突破を決めたという要素も、その判断に影響してくるだろう。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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