フランスの二の舞を避けたいスペイン 凋落を見せる前回王者に必要な修正

衰退期を迎えている前回王者

初戦でオランダに大敗したスペイン。前回王者の衰退は否めない事実だ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 前回王者のデビュー戦としては史上最低の結果となったオランダとの初戦において、スペインはなすすべなく1−5と大敗した。今大会初のサプライズとなったこの敗戦は、以前からスペインに内在し続けてきた問題を明るみに出すものだった。

 スペインは主力選手の平均年齢以上に、プレーコンセプトの部分で老いたチームとなってしまった。ライバルからの分析と対策が進み、主力選手のパフォーマンスが低下する中で、彼らがこだわってきた美しく華麗なポゼッションスタイルは徐々に機能性を失ってきたからだ。

 崇高な理想を追求してはいるものの、今のスペインはイメージ通りのプレーをピッチ上で表現できていない。4年前のワールドカップ(W杯)はもちろん、12年のユーロ(欧州選手権)を制した2年前と比べてもプレーの精度が落ち、あまりにも動きが遅くなった選手が何人もいる。

 とはいえ、それは予測できたことだった。スペインのベースはバルセロナにある。そのバルセロナが主要タイトル無冠のままシーズンを終え、1つのサイクルが衰退期を迎えているのだから、『ラ・ロハ(スペイン代表の愛称)』も同様に疑念の海に迷い込み、真っ暗な水の中をさまよい泳ぐことになったとしても不思議ではない。

新しい戦術的バリエーションがない

 スペインは今、バルセロナと同じ問題を抱えている。ビセンテ・デル・ボスケ監督が取り組んできた試みは称賛すべきものであるが、彼は自分たちのプレーが多くのライバルに知れ渡り、対策法が確立された後も、ライバルを驚かせるような戦術的バリエーションを見いだせていない。

 デル・ボスケはこれまでも純正のストライカーやウイングを起用することが少なかったが、今回はヘスス・ナバスとフェルナンド・ジョレンテを招集せず、ポゼッションスタイルにアクセントを加える2つのオプションを放棄してしまった。

 ジエゴ・コスタの招集にしても、ブラジルとの間で生じた招集問題の結果として彼を呼ばないわけにはいかなくなかった印象が強い。彼はスペインのコンビネーションプレーに適したタイプの選手だとは思えないし、母国のピッチに立てば地元ファンから敵意の集中砲火を受けることは明らかだった。

待ち続ける攻撃陣と安定感を失った守備陣

 ショートパスによる崩しに固執するのではなく、時にロングパスを交えて変化を加えようという意図も、今のチームからは見られない。コンパクトなブロックを形成してゴール前の守備を固め、カウンター狙いに徹してくるライバルチームは、そのことに加えてスペインの守備が以前ほど堅固ではないこともよく知っている。

 数年前と比べ、スペインの最終ラインは安定感が随分と落ちた。ジェラール・ピケは数年前の彼ではない。右サイドバックの先発を勝ち取ったセサル・アスピリクエタも存在感がなく、攻撃参加も物足りなかった。そしてサイドで起用されているダビド・シルバやアンドレス・イニエスタもウイングではない。彼らはただひたすらにボールを保持し、ライバルを心身ともに消耗させ、いつかそれがゴールにつながることを待ち続けるためにプレーしているかのようだ。

 だが高いボール支配率がゴールどころかチャンスメークにも結びつかず、しかもかつては不可侵の守護神だったイケル・カシージャスが失点に直結するポジショニングやボールコントロールのミスを繰り返すようでは、最悪の結果――中盤では優位性を保ちながらも、2つのペナルティーエリア内を相手に支配されてしまう――が生じてしまうのも仕方ない。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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