W杯ベスト4へ 自信みなぎるベルギー 育成強化で作り上げた「楽しい」サッカー

中田徹

本番前の緊張感ある練習

W杯前の親善試合で先発出場した19歳のFWオリギ(右)。ベルギーは次世代選手も育っている 【写真:ロイター/アフロ】

 この1カ月間、ワールドカップ(W杯)ブラジル大会に臨むベルギー代表は非常に強度の高い練習をこなしてきた。合宿初期の頃は、所属クラブで出場機会が少ない選手のコンディションを取り戻す意味合いもあったが、6月14日(現地時間。以下同)に行った4チームに分かれての5対5は、どの選手も「勝ちたい」という意欲にあふれた故の激しさだった。

 FWディボック・オリギとMFケビン・デ・ブライネは足首を痛め、MFマルアン・フェライニは審判を務めたマルク・ビルモッツ監督の判定に怒りを露にし、ノーゴールに終わったFWロメル・ルカクはポストを蹴り上げ、MFスティーブン・デフールはコーチとの激しい議論を続けた。

 大会が始まったことによる入れ込み、初陣前の緊張、健全なチーム内競争、長期合宿による苛立ち、そして何より、彼らのウイナーズメンタリティーが現れた14日の練習だった。

ヤヌザイ、オリギと次世代選手も育つ

 守護神のティボ・クルトワはスペインリーグを制し、チャンピオンズリーグ決勝という大舞台も経験した。チームの精神的支柱であるDFバンサン・コンパニはプレミアリーグで優勝した。DFヤン・ベルトンゲン、MFエデン・アザール、MFドリース・メルテンス、フェライニ、デ・ブライネ、ルカクといったビッグリーグでプレーするスターたちの中に、MFアドナン・ヤヌザイ、オリギという2人の19歳がメンバーに加わり、『タレント軍団』とうたわれるベルギーはバージョンアップを果たした。

 ルカクのバックアップであるオリギは7日のチュニジア戦で初めて先発出場し、センターFWとして62分間プレー。自陣に引いて守るチュニジア相手に狭いスペースでの技術を発揮し、思いきりの良いシュートを放つなど、印象深いパフォーマンスを発揮した。

 オリギのプレーについて、ビルモッツ監督は「誰もが彼のスピード、アクション、トラップ、テクニックを見たと思う。3、4回チャンスを作った。クオリティーの高さは明らか」と語った。

 そして今季、マンチェスター・ユナイテッドで鮮烈デビューを飾ったヤヌザイ。今のベルギーサッカー界は代表チームでも欧州のトップシーンでも活躍するスターたちの、そのまた次の世代も育っているのである。

00年ユーロを契機に育成に力を入れる

 ベルギーが育成に力を入れ始めたのは2000年頃から。オランダと共同開催した2000年のユーロ(欧州選手権)でベルギーは、決勝トーナメントへ進めなかった。地元開催ということもあって、ベルギーサッカー協会はA代表チームへの強化に力を注いだが、それでもグループリーグを突破できなかったこと、その間、ユース育成がおろそかになったことに危機感を抱いた。

「幸い、ユーロを開催したことによって、サッカー協会にはお金があった」と関係者。ベルギーサッカー界の将来に危機感を抱いた彼らは、「今こそ、ユース育成に力を注ぐべきだ」と決め、ベルギーの南北にあるユース育成大国、オランダとフランスのシステムを参考に、独自のユースポリシーを作った。

 当時、プロサッカーから育成世代まで、勝つための守備的なサッカーやオーバーコーチングが蔓延(まんえん)していたベルギーサッカー界にとって、オランダの楽しさを追求する攻撃サッカーはカルチャーショックだった。この時、学んだ「サッカーは楽しい」というコンセプトは、今も一貫してベルギーサッカー協会の指針となっている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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