不安の残る“ファンタスティック4” ゴールはメッシ復活の狼煙となるのか?

工藤拓

前線で好調なのはイグアインだけ

状態の良さを印象づけたイグアイン(左)。メッシの決勝ゴールをアシストするなど周囲との連携が光った 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

 しかし、その後は相手の運動量が落ちてきたため同様の形で何度もフィニッシュに持ち込むチャンスがあったにもかかわらず、結局メッシが全盛期のキレを見せたのはこのゴールシーンのみ。あとはパスがずれ、シュートが枠を捉えず、判断の遅れからチャンスを逸すなど、やはり全盛期と比べて体のキレやスピードが落ちている印象は拭えなかった。

 メッシの出来とともに、ディ・マリアのコンディションにも不安が残った。レアル・マドリーでタフなシーズンを戦い抜いた直後の彼は心身共に疲れが溜まっている印象。この日はイージーなミスや淡白なプレーが目立っただけでなく、後半半ばには珍しく明らかなガス欠状態に陥っていた。

 そしてアグエロの出来もいまいちだった。前線で孤立していた前半に見せ場がなかったのは当然として、後半は周囲が連動性を増す中で思うようにチャンスに絡めず、不完全燃焼のまま交代を強いられている。

 クアトロ・ファンタスティコスの中で唯一状態の良さを印象づけたのはイグアインだ。この試合当日、スペイン紙『マルカ』にバルセロナ移籍が間近とスクープされた彼は、ゴールシーンのポストプレーを筆頭に、タイミングの良い動き出しで縦パスを引き出し、メッシや他のアタッカーと息の合った連携を築いていた。

サベーラは攻撃的采配を貫けるか

 85分に失点を許した守備の脆さを含め、不安要素は少なくない。だが、それでも初戦で勝ち点3を手にし、単発とはいえメッシが決定的なプレーを見せたことは好材料だ。そもそもアルゼンチンがW杯の初戦で苦戦を強いられるのは今回に限ったことではない。メッシは言う。

「自分のゴールは皆をプレッシャーから解放するものだった。それまでうまくいっていなかっただけに、自分にとっても特別なものだった。1つ決められて良かったよ。ミスが起きるのは自然なこと。初戦は不安や緊張があるものだからね。重要なのは勝利とともにスタートすることだった」

 この日のプレーを見た限り、メッシの不調はバルセロナからアルゼンチンへとユニフォームを着替えただけで劇的に改善されるもののようには思えない。一方で本人が言っている通り、この日は初戦特有の不安や緊張、プレッシャーといった要素がプレーに影響を及ぼしていた可能性もある。

 果たしてこの日のゴールはメッシ復活の狼煙(のろし)となるのか。それはサベーラが弱気な守備的システムではなく、クアトロ・ファンタスティコスの攻撃力を引き出す攻撃的采配を貫けるかどうかにもかかっている。

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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