日本新まで3cm 躍進続ける走高跳の新鋭 実業団に進まず欧州で切り開く新たな道

折山淑美

日本新も視野 期待のジャンパーに飛躍の予感

日本新まであと3センチと迫った戸邉直人が、欧州遠征で学んだこととは!? 【Getty Images】

「助走が合えば2メートル25は跳べると思っていたし、最悪でも2メートル28くらいではまとめたかったので残念でした。条件の変化に左右されて技術の差が出てしまって……」

 6月8日の陸上・日本選手権男子走り高跳び決勝。2メートル25を3回とも失敗して3位にとどまった戸邉直人(千葉陸協)は、無念そうな表情で話した。雨が降ったり止んだりする悪条件。戸邉の2メートル25の跳躍は、踏み切りが近過ぎたり遠過ぎたりで安定せず、体が浮き上がっていながらもバーを落とし続けたのだ。

 だが今季の戸邉は、大きな飛躍を予感させるようなシーズンインを迎え、手応えを感じている。冬季にヨーロッパの室内競技会にも挑戦した彼は、2012年ロンドン五輪王者で今季室内で2メートル42を跳んでいるイワン・ウホフ(ロシア)や、13年世界選手権(ロシア・モスクワ)の王者で2メートル42の記録を持つボーダン・ボンダレンコ(ウクライナ)と戦った5月のゴールデングランプリ東京では、自己記録の2メートル31を一発で跳んで3位になり、2メートル33の日本記録更新も視野に入れた。

 09年には2メートル23の高校記録を跳び、10年世界ジュニアでは銅メダルを獲得している22歳の戸邉。「同期のディーン元気や飯塚翔太(ともにミズノ)の活躍はすごい刺激にも焦りにもなっていたけど、ある程度の結果が出るようになって振り返れば、大学の4年間は自分のトレーニング法を模索する期間だったと思います。今はやっとそれが確立できたので結果がついてきている。今のままで2メートル35超えまではいけるかなという手応えを感じるようになりました」と言うまでになった。

欧州で学んだ“無駄を省いた”練習スタイル

 自分なりの新しい方法を見つけたいと思っていた戸邉が、トレーニングに対する考え方を変えたのは筑波大2年の時だった。1年で2メートル24まで記録を伸ばしていた彼は、夏にユニバーシアードへ向けての練習の走り込みで腰を痛めた。これをきっかけに、日本式のトレーニングではなく、跳躍の本場でもあるヨーロッパスタイルを本気で学ぼうと思ったのだ。

 それが本格的にできるようになったのは大学3年の冬。04年アテネ五輪王者のステファン・ホルム(スウェーデン)の拠点に単独で1カ月間留学してからだ。ホルムの父親の指導を受け、週末に帰ってくるホルムとも共に練習をした。
 そして今年は、ボンダレンコのマネージャーがいるエストニアを拠点にして、練習や室内競技会に出場しヨーロッパスタイルへの理解を深めてきた。

「大学3年の時は、練習の質を上げることばかりやって足首に負担がかかってしまい、痛みが出てしまった。でも、その後の冬にホルムのところに行って、彼の高跳びだけに特化している練習を実際に見られました。自分で考えただけでは、無駄を省こうとしても思い切れない部分があったけど、彼の練習を見て思い切りをつけられたのはすごく大きかったですね」

 ホルムが練習拠点にしていた室内トラックには、高さの違うハードルやボックスなどいろんな用具が豊富にあった。冬の間からそれをさまざまに組み合わせて使用するなど、どうしたら高く跳べるかということを追求して、効率化を図りつつも質を高めてくことを考えてトレーニングをしているのを見て、「そうなのか」と得心したという。
「日本では跳躍種目でも『陸上競技なのだから走りを軸に』と言われるけど、今はもうそんな考えは古いというか……。極端な話、ホルムはスプリントトレーニングは全くやらない。そういうところでどんどん無駄を省く必要はあるのかなと思いました」

 目指すべき方向がハッキリした昨年は、自己記録を2メートル28まで伸ばして自分の考えにも自信を持てた。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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