ホスピタリティーを感じたW杯開幕の夜 旅人に優しいサルバドールの街から

中田徹

印象的なオランダサポーターとの出会い

オランダから米国に渡り、中南米を縦断してブラジルへ来たというベンさんの車 【中田徹】

 事前の盛り上がりは今ひとつでも、この町では13日にオランダ対スペインという好カードが組まれているとあって、とりわけオランダサポーターが早くから乗り込み始めていた。

 11日にはベンさんという、オランダから米国へ渡り、そこから車で中南米を縦断しブラジルまで辿り着いたというサポーターと会った。彼は派手なオレンジ色に塗装された古い車にサッカーボール型の幌をかけ、その中で寝泊まりしながら5カ月もかけてブラジルへやってきたのだ。

 ベンさんにオランダ語で話しかけると大変喜んでくれたが、世界のメディアが彼のことを放っておかない。「あとで必ず戻って来るから」と言ってからベンさんはインタビューをいくつか受けていた。その間、ボンネットに書かれたスペイン語、ポルトガル語、英語の書き込みを見ると本当に国際色豊かであり、中には自分の愛するチームを応援するものもあったが、ほとんどが旅の無事を祈るもの、そして平和への願いがこもったものだった。

 結局、ベンさんが僕に割ける時間は記念写真の撮影程度だったが、それでも彼を待つ間、車に寄せられた書き込みを読んでいるだけで、彼の旅の理由が分かったような気がした。

楽しいW杯になるという確信

バーハという海岸にある灯台の空き地に設けられたパブリックビューイングには1万人ほどの人が集まった 【中田徹】

 サルバドールの人は旅人に優しい。道に迷えば向こうから声をかけ、助けてくれるという場面が、この短い滞在の間でも何回もあった。ある晩、1人で質素な夕ご飯を食べていると、2人の若者が「外出する時は手ぶらにしろ。カメラも時計もホテルに置いていけ」などと、この町での心得を教えてくれた。そんな彼らの真面目そうな態度を信頼して、小さな祭りの会場に行って一緒にビールを飲んで語り明かしたが、「俺たちは1人で来ているお前のことを決して孤独にしない」と言ってくれたのはとてもうれしかった。

 パブリックビューイングは、バーハという海岸にある灯台の空き地に設けられた。およそ1万人のファンが12日の開幕戦を堪能し、ブラジルの勝利に沸きに沸いた。

 宿に戻ると早速、ブラジル人、オランダ人、スペイン人、ベネズエラ人、米国人、そして日本人の僕という国際色豊かなメンバー20人ほどでサッカー談義をしながらビールや、カイピリーニャというブラジルのカクテルを飲んだ。

 日本とオランダは近年、試合をすることが増えているし、去年はコンフェデ杯にも参加したから、彼らも日本のサッカーが攻撃的で、テクニックがあってすばしっこいのも分かっている。お世辞もあるだろうし、守備の弱点も知らないのかもしれないが、この宿の住民たちは日本の決勝トーナメント行きを保証してくれた。また、こうした日本サッカーへの印象は、サルバドールで出会ったブラジル人たちが共通して持つものでもあった。

 あえて今回、僕は大都会のサンパウロを避け、開幕戦をよりブラジルの色が濃いサルバドールで過ごすことを選んだ。地元の人たちのホスピタリティーに触れ、そして開幕戦が終わった後の“延長戦”を過ごしながら、今回のW杯は楽しいものになると確信した。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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