全仏OPで明確化した男女の異なる現状 テニス界の世代交代は進むのか

内田暁

女子は一気に下克上の可能性も

女子は22歳のハレップ(写真)をはじめ、若手が躍進。今後、一気に世代交代が進む可能性もある 【Getty Images】

 ランキング1位のセリーナ・ウィリアムズ(米国)と、2位のナ・リ(中国)がそろって32歳。強い30代が若手の台頭に蓋をしていた感の強い女子テニスだが、その停滞感に穴をうがつ勢いとポテンシャルを、新たな勢力が今大会で示してみせた。

 その筆頭が、敗れはしたものの、初のグランドスラム決勝の大舞台にもひるむことなく、マリア・シャラポワ(ロシア)を相手に3時間2分の熱戦を演じたシモーナ・ハレップ(ルーマニア)。そしてもう一人が、準決勝でやはりシャラポワにフルセットの末に敗れた、ユージェニー・ブシャール(カナダ)である。
 ハレップは1991年生まれの22歳。ブシャールは94年生まれの20歳。6月9日付のランキングでは、それぞれ3位と12位にランクアップしている。
 この2人の共通点は、ジュニア時代に成功を収めている点だろう。ハレップは08年の全仏ジュニア優勝者で、ブシャールも12年ウィンブルドンジュニアで単複制覇を果たしている。

 モニカ・セレシュ(米国)やマルチナ・ヒンギス(スイス)が16歳で頂点に君臨した時代を知る者には、20歳や22歳を「若手」と呼ぶことに若干の違和感を覚えるかもしれない。だが、若年層の大会出場数を規制している現行のシステムでは、10代女王の出現など、もはや望めないのが現状だ。“バーンアウト”(燃え尽き症候群)を防ぐ目的で95年に初めて導入された年齢規制は、以降いくつかの基準変更を行い現在に至っている。例えば98年のルールでは、16歳の選手は年間17大会に出場できたが、現在は12大会。そのため、少しでも実戦経験を積みたい若い選手たちは、ジュニア大会に出る以外に選択肢が無かったのだ。

 この年齢規制が解けるのが18歳。そこから本格的にツアーを転戦し、経験と実力を積み上げるのに要する時間が、最低2〜3年。ハレップやブシャールは、年齢規制に適応し、ジュニアからプロへの移行をスムーズにできた例と見ることができるだろう。
 この2人以外にも、今大会の初戦でナ・リを破ったクリスティナ・ムラデノビッチ(フランス)が21歳。2回戦でセリーナを破ったガルビネ・ムグルザ・ブランコ(スペイン)が20歳。3回戦でアグニエシュカ・ラドワンスカ(ポーランド)を破ったアイラ・トムジャノビッチ(クロアチア)が21歳。彼女たちは皆、同世代の活躍が刺激と自信になり、強大な勢力となる可能性を秘めた女王予備軍である。

 今季の女子テニス界は、下剋上が一気に成されても不思議ではない。 

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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