異色逃げ馬ミッキーアイル、強さの秘密=安田記念直前 浜中俊に聞いた
3歳トップマイラー、ミッキーアイルの強さの秘密を主戦の浜中に聞いた 【netkeiba.com】
3歳馬の中では力が一枚上
NHKマイルカップは苦しんだ中での優勝だったが、だからこそ同世代では1枚上の力を改めて感じたという 【netkeiba.com】
「コースに関しては色々な意見がありましたが、絶対に逃げ切ってやるんだと思ってましたね。内に行く馬がいましたが、主導権を取っていつもの競馬をすれば大丈夫だと信じていました。ただ、GIで1番人気に支持してもらっていたので、緊張しましたね。モチベーションはかなり上がりましたが、『もし負けてしまったら……』という不安もありましたから」
スタートを切ると、ミッキーアイルはスイスイと加速して、すんなりと先頭に立った。道中もバツグンの手応え。直線に入ってからも、追い出しを待つ余裕があった。しかし、いざ追い出してみると、後続馬たちを振り切ることが出来ない。このまま殺到する後続馬たちに飲み込まれるのではないかとさえ思った。
「正直、負けたと思いました。いつもは追い出してからグッと体が沈んで、もう一度後ろを引き離すんですけど、逆に体が浮き上がってしまったんです。後ろから『ドドドドド』っていう足音が聞こえていたし、直線半ばでは後ろに飲み込まれてしまうんじゃないかと思いました」
しかしミッキーアイルは、ここから驚異の粘りを見せた。残り200mの時点で、ホウライアキコが半馬身差まで詰め寄って来る。残り100mでは、外から一気に4頭の馬たちが襲い掛かって来た。6着までがコンマ1秒の中にひしめき合ったゴール前、それでも先頭は譲らなかった。
「本当によく粘ってくれました。結果的に、ホウライアキコが迫って来たのが良かったんだと思います。あれで闘志に火が付いたので。最後はクビ差でしたが、着差以上に強かったと思います。やはり3歳馬の中では、力が一枚上ですね」
ガッツポーズが出来なかった真相
NHKマイルC1着後、実はウイニングラン中に「落馬してしまうかも」と浜中は思っていたという 【netkeiba.com】
「周りから『冷静だな』って言われたんですが、それには理由があるんですよ。ゴール直後は必死すぎて息が出来なかったんです。2コーナー過ぎ辺りで止めた頃にはだいぶ落ち着いていたので、『ああ、勝って良かった。よし、ウィニングランだ!』って思ったんですが、今度はミッキーアイルが物見しちゃって進んでいかなくて……。本当はスタンド前まで軽く流しながらガッツポーズしたかったんですけど、急に止まったり、横にビューンって行ったりするから、一瞬しか手を上げられなかったです。最悪、落馬してしまうかもと思いながら、必死でウィニングランをしていました(笑)。本当はもっとカッコ良くやりたかったんですけどね」
この、『物見をして進んで行かない』というのが、ミッキーアイルの本質をよく表している。逃げ馬と一口に言っても色々なタイプがいるが、基本的には『自分からハミを取って、とにかく一生懸命に前に突き進んで行く』という猪突猛進型の性格が多い。しかしミッキーアイルは、レース中自分からグイグイとハミを取っていくタイプではないのだ。NHKマイルCの時も、物見をしてフラフラしていたという。
「だからこそ道中でハミが抜けるので、最後の末脚に繋がるんだと思います。いつも物見をしてフラフラ走っていて、手応えの割に進んで行かないという感じで。でもそれが、良くも悪くもいいのかもしれないですね」
これまでのレースは、ハイペースでもスローペースでもなく、すべて平均ペースを作り出して勝っている。異色の逃げ馬ミッキーアイルの強さの秘密は、一体どこにあるのだろうか。
頭をよぎった嫌な予感が的中……
新馬戦当時を振り返る浜中、「素質は十分に感じていたけど……」 【netkeiba.com】
「すごくいい背中をしているし、馬にも品があって、跨った瞬間はすごくいいなと思いました。だけどチャカチャカするし、キャンターに行ったらガーンと引っ掛かるし、『これは競馬に行ったら大変だな』と思いました」
浜中の予感は、見事に的中した。新馬戦で2番人気に支持されたミッキーアイルは、好スタートから内を見る形で好位に付けると、直線を向いた時には持ったままの手応えで先頭。浜中が追い出すと後ろを突き放し、そのまま楽勝するかに思えた。しかし、内に馬がいなくなると、一気に内ラチまで切れ込んでしまい、態勢を立て直している間にアトムに差されて2着となってしまった。
「『やっぱりな』と。何かやるとは思っていました。途中までは本当にいい手応えだったので、楽勝かと思ったんですけどね……。あの時はハミが舌を完全に越してしまって、コントロールが利かなくなってしまったんです。それで、2戦目からは舌を括るようになって、レースぶりが一変しました」
その2戦目、ロケットスタートからバツグンのスピードを生かしてハナに立つと、後続を5馬身千切って圧勝。ウオッカが持っていた2歳レコードを上回る凄まじい時計を叩き出し、一気に世代屈指のスピード馬として注目を集めた。この時、12月の朝日杯FSを意識したのは、陣営だけではなかっただろう。競馬に“もしも”はあり得ないが、もしもミッキーアイルが朝日杯FSに出走していたら……、人気を集めたことは間違いない。
「当然、朝日杯に出走出来ると思っていました。最終追い切りにも乗せていただき、すごく状態も良かったですし、未勝利を勝ったばかりですが自信もありました。もし除外になったら土曜日に中山で行われるひいらぎ賞を使う予定になっていたんです。そうなると僕は阪神での騎乗が決まっていたので乗れないんですね。『こういう時、持ってる人は入るだろう』って思ってたんですけど……。持ってなかったですね(苦笑)」