ブラジルW杯はメッシの大会となるのか? 守備に不安も優勝を期待するアルゼンチン

アルゼンチンをW杯優勝へ導くリーダー

メッシを中心とした強力な攻撃陣を擁しながら、守備には不安を抱えるアルゼンチン。本大会ではどんな戦いを見せるか? 【写真:ロイター/アフロ】

 それにメッシは蒸し暑いバランキージャ(コロンビアの都市)でのコロンビア戦で逆転勝利の立役者となった2年半前より、代表でもバルセロナと同様に居心地の良さを感じられるようになり、今ではバルセロナより代表の方が生き生きとプレーできるまでに至った。

 それ以前のメッシは国民的アイドルであるカルロス・テベスの影で、ほとんど外国人選手のように見られていた。当時の彼は代表でプレーするたびにストレスを溜め込み、カタルーニャに戻った後に精神的なガス抜きを行うことが習慣となっていたが、それも今では不要になった。

 メッシは今、アルゼンチンの人々にとって大いなる希望となっている。彼のイメージは28年の時を経てとうとう母国をW杯優勝へ導いてくれるリーダーとして、町中の通りやテレビCM、活字メディアを埋め尽くしている。

不安要素はあるも、世界中の注目が集まる

 メッシ擁するアルゼンチンのプレースタイルは、バルセロナよりレアル・マドリーに近い。ボールポゼッションの可能性を放棄する訳ではないものの、ライバルのミスを突き、カウンターで仕留めるのがサベーラのチームだ。

 問題はゲームをコントロールするオーガナイザー役がいないことで、それは長い歴史と伝統を持つこの国のフットボール界においては珍しいことである。ハビエル・パストーレやアンドレス・ダレッサンドロにその役割を任せることもできたとはいえ、今もアルゼンチンにおける最高の司令塔はケガが多く継続してプレーできる状態にない36歳のフアン・ロマン・リケルメなのだ。

 開幕を目前に控えた現在、アルゼンチンが抱えている不確定要素の1つは、2人のピボーテの回復状態だ。バルセロナでは長らくセンターバック(CB)としてプレーしてきたハビエル・マスチェラーノは、元々の本職である中盤でのプレーに再度適応する必要がある。そしてフェルナンド・ガゴはボカ・ジュニオルスに復帰して以降、イレギュラーなプレーが続いている。

 サベーラは4−3−3を基本布陣としてグループリーグを戦うつもりだが、試合展開によってはマキシ・ロドリゲスを中盤に加えた4−4−2に変更することも考慮している。
 最終ラインに不安を抱えるアルゼンチンにとって、中盤の守備が薄くなる4−3−3は非常に攻撃偏重なシステムだからだ。その点、サベーラはフェデリコ・フェルナンデスとエセキエル・ガライのCBコンビの継続にかけながらも、豊富な経験と質の高いフィードというプラスアルファを持つマルティン・デミチェリスを招集メンバーに加えている。

 もう1つの不安要素はGKだ。マラガのウィリー・カバジェロ、リーベルプレートのマルセロ・バロベロ、ラヌスのアグスティン・マルチェシンといった優秀な選手がいながら、サベーラは就任当初に選んだ3人の守護神を頑に保ってきた。今大会で正GKを務めるのも、モナコでベンチを温め続けているセルヒオ・ロメロで間違いないだろう。

 不安は少なからずある。だが6月15日、リオデジャネイロのマラカナンにてボスニア・ヘルツェゴビナと対戦する際には、全世界の注目と、フラッシュが世界最高の選手であり、アルゼンチンの全国民が当然のごとく期待を寄せているメッシに集中するはずだ。

(翻訳:工藤拓)

2/2ページ

著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント