日本代表、熾烈を極める1トップ争い 柿谷、大迫、大久保をどう使い分けるか?

元川悦子

結果を残した点で柿谷がやや優勢か?

途中出場ながら柿谷は1得点1アシストと結果を残した 【Getty Images】

 一方、2度目のチャンスを与えられた柿谷は、キプロス戦での物足りなさを胸に刻みつけながら、新たに気合いを入れてピッチに立った。「同点だったので逆転しようという気持ちでしっかり入った」と本人も胸の内を振り返った。

 その彼に最初の見せ場が訪れたのは、ピッチに立ってからわずか4分後。セレッソ大阪同期加入の盟友・香川の左サイドからの突破にうまく呼応して、ワンツーで落とし、エースナンバー10の決勝点をお膳立てしたのだ。

「僕は触って出しただけ。真司君が得意なプレーなんで、自分がおとりになれるようにと。圭佑君もスペースを空けてくれたのもあるし、結果的に決めてくれたのでいい攻撃になった。今までもいい攻撃ができているのに決められていないとか、狙った形じゃないのにゴールが入ったりと、いろいろなことがあったけど、チームとして明確な意図のある攻撃を増やしていければいいと思います」と、柿谷は今後の改善点を口にした。

 さらに、後半アディショナルタイムには、香川のクロスを岡崎とマインツの同僚・ディアスが競り合い、中央にこぼれたところに柿谷が飛び込んでゴール。「しっかり飛び込んで、入ったんでよかった」と安堵感をのぞかせた。彼にとっては昨年11月のベルギー戦(ブリュッセル)以来の得点。短時間の出場ながら、まずまずのアピールを見せたようだ。

 この2試合を振り返ってみると、3人の1トップでの出場時間は、柿谷がトータル73分、大迫が76分、大久保が32分(右サイドを含めると77分)と、柿谷と大迫はほぼ同じ。得点やアシストという明確な結果を残した点で、目下、柿谷がやや優勢と言えるかもしれない。

 とはいえ、ゴール以外の部分では、大久保は前線で怖さと鋭さ、迫力をもたらし、大迫も周囲と絡みながら体を張ったポストプレーやヘディング力という長所を前面に押し出すなど、おのおのがキラリと光る一面を見せた。鋭い裏への抜け出しとゴール前のひらめき、アイデアを持つ柿谷は、彼らとは全く違う特徴を持つ選手。「全員の足が軽くなる一番の薬は先制点。それを一番手っ取り早く取る方法は、前でパッともらって2タッチくらいで決めること。パスを何本もつないで取るのもゴールですけど、それはそれで1点で、ボールを回すだけがサッカーじゃないんで、90分の試合運びの中でもっと状況に応じたプレーができればいいかなと思います」と彼は自身のストライカー哲学の一端を口にしたが、縦を意識した攻めを志向するなら柿谷がいいだろう。3人をどう使い分けるかは指揮官も悩みどころに違いない。

本田、岡崎という可能性もゼロではない

 ブラジルW杯初戦の相手・コートジボワールと同じアフリカ勢のザンビアとの6月6日(現地時間)のテストマッチは、誰を抜てきするかを判断する1つの指標になりそうだ。内田篤人や長友佑都ら両サイドバックのクロスを生かそうと思うなら、大迫が適任だろうし、相手の背後を突く形をメインにするなら柿谷がいいだろう。大久保は1トップ経験が少なく、周囲との連係が未完成な部分もあるだけに、頭からというのはリスクが大きい。が、個の打開力や推進力は最も高い。試合開始から本田や香川、岡崎を含めた前線4枚を流動的に動かしながら、大胆に攻め込むというゲームプランを取るなら、大久保がベストな選択といえる。

 4年前の南アフリカW杯でも、岡田武史監督は1トップを誰にするかで最後の最後まで悩み、最終的に岡崎を外して、前線でボールを収められる本田を起用するに至った。その策がズバリ的中し、初戦・カメルーン戦での1−0の勝利、そしてグループリーグ突破につながった。

 ザンビア戦で候補者3人全員が信頼に値するパフォーマンスを示せなかった場合、ザック監督が本田か岡崎を前に上げるサプライズ采配に打って出る可能性もゼロではない。今季ブンデスリーガでFWとして15得点をたたき出した岡崎は「仮に1トップに入るにしても、マインツでやっているのと日本代表でやる役割は違う」と慎重な物言いだったが、慣れた前線で自由に動き回りたいという思惑もどこかにあるはずだ。

 この2人を含めて、1トップの動向はコートジボワール戦ギリギリ前まで注視する必要がありそうだ。いずれにせよ、直近のザンビア戦で誰がどのように使われ、どんな仕事をするかをしっかりと見極めることが肝要ではないだろうか。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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