オランダ、5−3−2転換の背景 守備重視の戦術は国内でも賛否分かれる

中田徹

急ピッチでフォーメーションの転換を進める

オランダはファン・ペルシのゴールでガーナに勝利したものの、守備的戦術に賛否は分かれている 【Getty Images】

 オランダ代表を率いるルイ・ファン・ハール監督は、ワールドカップ(W杯)・ブラジル大会を目前にして、急ピッチで5−3−2フォーメーションへの転換を進めている。5月17日には主将のロビン・ファン・ペルシを除いて、オランダリーグ勢でメンバーを組み、エクアドル相手に1−1と引き分け。31日のガーナ戦は目下のベストメンバーで戦って1−0で完封勝ちした。

 エクアドル戦後、ファン・ハール監督は「4−3−3フォーメーションはオランダ人の血に流れている」と認めたが、それでもなお、指揮官が5−3−2という守備的な陣形を敷くのは、今のオランダの戦力でW杯を勝ち抜くにはそれしか可能性がないからだ。

 2010年の南アフリカW杯で準優勝を果たしたものの、その2年後のユーロ(欧州選手権)ではグループリーグ3連敗というまさかの惨敗を喫し、オランダ代表はひとつのサイクルが終わった。

 KNVB(オランダサッカー協会)はファン・ハール監督にチームの若返りを託した。オランダリーグではユースで育成した選手の積極的な抜てきがトレンドになっており、ファン・ハール監督が代表チームに若い選手を招集する土壌ができていた。今回のW杯予選ではトルコ、ルーマニア、ハンガリーというくせ者相手にオランダは9勝1分けという望外の成績で首位勝ち抜けを決めた。

オランダはグループリーグを突破できるのか?

 その一方で親善試合では不振が続いた。昨秋、オランダは日本との試合で前半を2−0とリードしながら後半に入ってから崩れた。2−2の引き分けに終わったが、内容は負けてもおかしくないものだった。

「今のオランダ代表は世界のレベルから見たらたいしたことがない」というオランダ人の疑いが確信に変わったのが、3月5日にパリで行われたフランス戦だった。

 近年のフランスは決して世界トップクラスのチームではない。しかし、オランダはMFブレーズ・マテュイディのパワー、FWカリム・ベンゼマの起点となるプレーと決定力に対抗できず、0−2の完敗を喫してしまった。失点するまでオランダも試合をコントロールしていたものの、相手にとってはまったく脅威のないサッカーで、後半に至ってはシュート1本という貧攻ぶりだった。

 さらにフランス戦の翌週、オランダはケビン・ストロートマンをけがで失った。彼はパワー、走力、技術、戦術、リーダーシップを備えたオランダには珍しいタイプのMFで、さらにローマに移籍したことでハイレベルな経験を積んでいた。代えの利かないストロートマンの離脱が決まり、オランダ国民は悲嘆に暮れた。

 フランス戦と同じ日、W杯でオランダと同じB組に入ったチリが、ドイツ相手に0−1と敗れたものの素晴らしいサッカーを披露した。B組はスペインもいる。仮にオランダがB組を2位で突破しても、決勝トーナメントの1回戦はブラジルと対戦する可能性が高い。だが、その前にオランダはグループリーグで負けてしまうだろうという危機感がオランダ人の間に増した。

W杯で世界を敵に回すかもしれない

 くしくもこの時期、フェイエノールトのロナルド・クーマン監督がフローニンゲン相手に5−3−2による守備的システムを採用し、2−0という結果を残していた。またAZのディック・アドフォカート監督もアンジ(ロシア)相手のアウェーゲームで5−3−2フォーメーションを採用して、狙い通り0−0で引き分け。2試合合計1−0でヨーロッパリーグベスト8入りを果たした。

 また、ファン・ハール監督はAZ時代にストライカーのエル・ハムダウイのスピードと決定力を生かすため、8人の選手で自陣に守備ブロックを作り、ボールを奪ってから素早く縦に蹴るサッカーを採用してチームを優勝に導いた成功体験がある。

 ファン・ハール監督が、どこまでクーマン監督やアドフォカート監督の戦術からインスピレーションを得たか定かではないが、今回のガーナ戦後、指揮官は「W杯で結果を残すためには、現メンバーではこのやり方(5−3−2)しかない」と言い切った。

 この戦い方は「1986年メキシコW杯を制したアルゼンチンに似たものだ」(アルヘメーン・ダッハブラット紙)という見方もある。当時のアルゼンチンはディエゴ・マラドーナを徹底的に生かすためのシステムを採用し、攻撃に関してはホルヘ・ブルチャガ、ホルヘ・バルダーノも加えた3人の能力に頼っていた。

 今回のオランダはアリエン・ロッベン、ファン・ペルシの2トップにトップ下のヴェスレイ・スナイデルによる「ゴールデン・トライアングル」がチャンスメークとフィニッシュのほとんどすべてに絡む。ガーナ戦の5分に生まれた決勝ゴールはロッベンとのワンツーからスナイデルが抜け出し、最後はファン・ペルシがシュートを決めたものだった。

 こうしてオランダはカウンター軍団に変わった。3バックからのビルドアップではミスが相次ぎ、ガーナがボールを持つ時間が続いた。それでもスペースさえ見つければゴールデン・トライアングルが一気に敵陣ゴール前まで迫る。オランダ国内でも賛否分かれる代表チームの戦術は、W杯の舞台で世界を敵に回すかもしれない。しかし、結果を出すためにはこれしかない――その割り切りでオランダはW杯への準備を進めている。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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