注目の日本王者・内藤律樹が初防衛戦=6月のボクシング興行見どころ

船橋真二郎

国内でも役者がそろうSフェザー級戦線

沢木耕太郎のノンフィクション『一瞬の夏』の主人公であるカシアス内藤を父に持つ日本S・フェザー級王者・内藤律樹。6月にはベテラン玉越と初防衛戦を行う 【船橋真二郎】

 日本は体重の軽い階級が世界的に見てもレベルの高い“軽量級王国”だが、今、国内で最も粒ぞろいの階級のひとつがスーパーフェザー級(58.9kg以下)だ。2010年1月の戴冠以来、8連続防衛中のWBA王者・内山高志(ワタナベ)、昨年8月、日本人王者で初の海外初防衛に成功したWBC王者・三浦隆司(帝拳)の両世界王者を筆頭に、内山を相手に奮闘し、評価を上げた金子大樹(横浜光)が続き、9戦全勝(5KO)で金子が返上した日本王座に就いた元アマチュア高校3冠のサウスポー内藤律樹(E&Jカシアス)、18勝18KO(1敗)の強打を誇る元東洋太平洋王者でIBF世界5位の仲村正男(渥美)、14勝6KO1分と無敗をキープし、鋭利なカウンターを武器に評価を急上昇させている伊藤雅雪(伴流)と、なかなかに役者がそろっているのだ。

 世界的にも層の厚いスーパーフェザー級で頂点を極めるのは、そう簡単ではない。だが、ライバル同士の直接、間接の切磋琢磨は、より一層の飛躍を彼らにもたらすに違いない。仲村と伊藤は7月30日に東京・後楽園ホールで激突するが、「今度の初防衛戦をクリアしたら、金子さんか、その勝者とやりたい」と直接対決に意欲を隠さないのが日本王者の内藤である。6月9日、22歳のホープが後楽園ホールに迎えるのは33歳のベテラン玉越強平(千里馬神戸)。内藤の約5倍の46戦の戦歴と、4度の日本王座挑戦、1度の東洋太平洋王座挑戦経験を持ち、敵地メキシコで後に三浦に挑戦することになる当時のWBC1位ダンテ・ハルドンに3ラウンドTKO勝ちしたこともある。分厚い経験を有する玉越に対して「引退を賭けてくると思うし、距離感が独特でやりづらい相手だけど、いい勝ち方をすれば僕の株も上がる。ボクシング界を盛り上げる面白いカードを実現するためにも重要な一戦」と内藤の意気は軒昂だ。

「カシアス内藤の息子」から「律樹は強い」に――

 4月上旬から1カ月間、内藤はロサンゼルスで武者修行を敢行した。滞在先は、あの6階級制覇のマニー・パッキャオ(フィリピン)を指導するフレディ・ローチ氏のワイルドカードジム。今回は直接、指導は仰げなかったが、「技術というより向こうの選手のボクシングに賭ける情熱、ハングリーさ、強い気持ちを感じたかった」と内藤はその狙いを説明する。2月の王座決定戦は31歳のベテラン松崎博保(協栄)を持ち前のスピードとテクニックで置き去りにし、8ラウンド終了時に棄権に追い込む完勝だったが、リスクを冒さず安全運転に徹した自分に不満が残ったのだという。本場でのスパーリング主体のハードな練習で「決めるところで決めに行く気持ち」を植えつけてきた内藤は「倒しに行く欲を出して、お客さんを沸かせる試合をしたい」と決意を語る。

 内藤の父は沢木耕太郎氏のノンフィクション『一瞬の夏』で知られる元東洋、日本ミドル級王者のカシアス内藤会長。“カシアス内藤の息子”のプレッシャーは常に感じてきたと吐露するが、ベルトという結果を手にした今、「『カシアス内藤のDNAだから』じゃなくて、『内藤律樹は強い』と言わせたい」という。ロサンゼルス行きは内藤の中で“けじめ”でもあったのだ。さらに上のベルトを目指し、「これから僕自身の新たなボクシング人生が始まる気がする」と内藤。玉越はその旅立ちにふさわしい難敵であり、試金石の一戦になる。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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