F1と自治体、互いに求め合う関係 鈴鹿市のケースから見る協力と経済効果

田口浩次

日本GPでのアルバイト経験を持つ末松市長

 そうした全国でも珍しい、モータースポーツを観光振興のツールとする鈴鹿市のトップである市長は、まさに適任と呼べる経歴の持ち主である。

 70年生まれの末松則子市長は11年5月に鈴鹿市長に就任した若い市長だ。鈴鹿市には小学生時代に引っ越してきて、鈴鹿市で育った。学生時代はソフトボール部に所属し、高校ではインターハイに出場した経験を持つスポーツウーマンである。スポーツに見識がある市長ならば、他にもたくさんいるだろうが、末松市長の場合は、まさに鈴鹿で育ったからこその経験がある。高校を卒業して、人生で初めて体験したアルバイトが、89年の日本GPだったのだ。

「高校卒業後、たまたま鈴鹿サーキットでアルバイトを募集していて、普通に申し込んだところ、配属されたのが日本GPの関係者が集まるホスピタリティテントでした。私は入口のチケット確認でもするのかな、というくらいの意識でしたし、もちろん、モータースポーツのことは何も分からないので、ホスピタリティテントに配属と聞いたときはビックリしました。そこで、すでに経験を積んでいた先輩に指導されながら、早朝から夜まで働きましたね。初めてF1を観た感動は今でも忘れません。あのエンジン音とスタート直後の火花に衝撃を受けました。あのエンジン音が心臓にドクンドクンと響くんです。世界的なイベントが作られていく様子を見るのも初めてでしたし、私はアルバイトでしたが、今思えば本当にすごい経験をさせていただきました」

 末松市長は日本GPを89年から91年の間に4回経験したほか、バイクレースの最高峰とも言える8時間耐久レース、スポーツカー選手権、全日本F3選手権などのレースイベントにもアルバイトとして携わった。レースがない時期には、サーキットランドの遊園地スタッフとして働いていたという。さらにモータースポーツイベントの裏方として働いた経験だけでなく、モータースポーツ好きな親戚に連れられて、観客としても学生時代にレース観戦の経験がある。インターハイに出場するほど専念した選手として、レースを楽しむ観客として、さらにはレースイベントを支える裏方として、それぞれで培った経験は、自身の視野を広げ、今はモータースポーツに関わる鈴鹿市長という立場においても大いに役立っている。

「観戦に来た人の満足度をさらに高めるために、バスなどの交通インフラの充実、マイカー利用客に向けた渋滞情報等の発信、宿泊地や飲食店の情報を分かりやすく発信するなど、市を挙げてサポートしていくことはもちろんですが、鈴鹿市民の皆さんにもF1を筆頭にモータースポーツをもっと好きになってもらいたいと思います。市民向けの観客席設置なども鈴鹿サーキットさんと協力して行っています。そして、1つ1つの満足度を高めていくことで、さらに鈴鹿市内や周辺自治体への観光スポットへの立ち寄りなど、F1招致の効果を最大限に生かしていきたいですね」

 昔と比較して、日本GPがより観戦しやすくなったというのは、実は鈴鹿サーキットだけの努力ではなく、自治体との協力が浸透してきた結果とも言える。その背景には、F1ビジネスが世界三大スポーツと呼ぶにふさわしい、経済効果を毎年生み出している、という事実がある。

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