好調・広島で光る若い力――チーム力高めた野村監督の育成術に迫る

週刊ベースボールONLINE

「失敗を恐れずにやるのが、成功への近道」

先発ローテで結果を出している大瀬良(14番)、九里(写真奥)。野村祐輔(写真手前、19番)も勝負所での復帰を目指し、2軍で再調整中だ 【写真は共同】

 この年、もう1つ大きな采配があった。菊池涼介の起用だ。東出輝裕が6月に右手中指を骨折。代わりに、安部友裕と菊池が日替わりでスタメンに名を連ねた。この年、菊池は打率2割2分9厘と振るわなかったが、指揮官は菊池の守備力と走力に目を付けた。

 翌13年は二塁のレギュラーとして開幕から起用。打順も丸と1、2番を組ませ、野村監督の理想である機動力野球を担うコンビへと成長させた。丸、菊池、堂林。堂林は現在右手薬指の骨折で離脱中だが、この3人の成長が野村監督の育成手腕を証明している。

 そして、その手腕が今年はさらに進化し、若手同士の競争に発展させている。ドラフト3位で入団した田中広輔を開幕1軍に入れ、開幕3戦目の中日戦(ナゴヤドーム)でスタメンに起用。これまでスタメンを確約されてきた堂林も、田中の台頭に焦りを感じた。これが相乗効果となり、不振だった堂林が復活し、チームの快進撃を支えた。田中も、木村昇吾や小窪哲也ら中堅選手とレギュラー争いを繰り広げ、勝負強さを発揮している。

 野村監督自身も、若手がプレーしやすい環境づくりに取り組んでいる。昨年の春季キャンプ前には、「失敗を恐れずにやるのが、成功への近道。ダメだからといって下を向かず、笑うことで自信をつければ」と常に笑顔でプレーすることを促した。これは現在のチームに確実に浸透していると言っていい。丸は「失敗したら外されるというよりも、成功したら使ってもらえる」とチームを代表して話す。これが生き生きと若手がプレーできる要因だ。

能力を発揮させた大瀬良、九里への思いやり

 野手だけではない。力のある投手ならば、積極的に使ってきた。ただ、力があるのに期待に応えない選手には厳しい態度で対応している。その代表的な選手が福井優也だ。1年目こそ8勝(10敗)をマークしたが、2年目は2勝(3敗)。何とか力を発揮してほしいと3年目の昨年はリリーフに配置転換したが、わずか12試合の登板に終わった。

「(福井に関して)昨年一番期待していたのは僕。声を掛け、アドバイスを送ったが、結果が出なかった。これからは自分でつかんでほしい」

 今季も5月7日の東京ヤクルト戦(神宮)で1軍に昇格し先発したが、5回6失点と結果を出せずに即2軍降格。厳しい処置だが、何とか自分で這い上がってほしいという愛情の裏返しだ。

 力があれば若手でも関係ないという考えが念頭にある野村監督にとって、大瀬良大地、九里亜蓮の先発ローテ起用は当然のことだった。1軍経験のあるローテ候補はほかにもいた。しかしキャンプ、オープン戦で結果を出したことで、新人右腕コンビを開幕ローテに入れた。
「2人で何勝とか酷なことは言いたくない。まずは1年間、働けること。それで合格点が与えられると思う」。過度な期待を掛けない思いやりが、2人の能力を発揮させている面もある。

経験を積んだ若手が結果を出す

 監督就任1年目の開幕スタメンで、今年の開幕スタメンに名を連ねた野手は、梵英心と石原慶幸だけ。ここまで劇的な世代交代を断行し、昨季は16年ぶりのAクラス入りを決め、初のクライマックスシリーズ出場を果たした。

 就任5年目となる今年、育てた若手が経験を積み、それが自信となって結果を出してくれている。「今の順位は昨年の勢い」と気を引き締める野村監督だが、恐れを知らない若い力に未知の可能性を感じているはずだ。

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