キプロス戦は大久保がトップ下で先発も 一次合宿を終え、スタメン争いも本格的に

元川悦子

基本戦術の確認とフィジカル重視の一次合宿

本大会に向けた立ち上げは、ハードなトレーニングで体をいじめ抜いた選手たち。この成果は、猛暑のブラジルできっと現れるはずだ 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

「非常にハードなトレーニングで、きつかったですけど、自分たちに必要なこと。今の代表メンバーは真面目に取り組む選手たちばかりなので、みんなでしっかりやれたと思います。この合宿のコンセプトは、フィジカルコンディション(を高める)部分と、自分たちのやり方をもう1回確認するということだったので、並行してやりました。(酒井)高徳がケガをして、まだ状況は分からないけれど、ワールドカップ(W杯)に向かう中でいい合宿だったと思います」

 昨年11月のオランダ・ベルギー2連戦以来、半年ぶりに復帰したキャプテン・長谷部誠がこう締め括った通り、日本代表は21日から25日まで鹿児島県指宿市で行われた第1次合宿を打ち上げた。

 集合日の21日は、所属クラブの試合のため帰国が遅れた本田圭佑、長友佑都、川島永嗣の3人を除く20人と、トレーニングパートナーの坂井大将(大分U−18)、杉森考起(名古屋U−18)の合計22人で始動した。22〜24日の3日間は午前午後の2部練習で、トータルの練習時間が4時間を超えるハードなものだった。走力に自信を持つ香川真司が「もう足がパンパンで相当きつい」と吐露し、柿谷曜一朗も「疲れて宿舎では寝てるだけです」と苦笑いするなど、選手たちは猛暑のブラジルを走り抜ける体を作るべく、相当に走りこんだ様子だった。

 24日には本田ら3人も合流。ようやく23人全員がそろったが、2日目を発熱で欠席した酒井高が24日の午後練習中に右ひざを負傷。病院に直行するアクシデントが発生した。25日の日本代表メディアオフィサーの説明によれば「右ひざに痛みはないが、昨日の検査で右ひざに小さな炎症があり、今はホテルで体幹トレーニングを行っている。明日以降、復帰に向けてバイクやジムを徐々に行っていく」ということだった。軽傷という情報はチーム全体を安堵させたが、29日に第2次合宿地の米国・タンパに着くまでは大事を取る可能性が高い。27日の壮行試合・キプロス戦は欠場となるだろう。

大久保はトップ下がメインに

指宿キャンプを終えて、「サイドは一度もやらなかった」と本人が話すように、現時点で指揮官は大久保をトップ下で使いたいと考えているようだ 【Getty Images】

 指宿ではすべてのトレーニングの冒頭15〜20分のみがメディア公開。詳細は明らかにされなかったが、アルベルト・ザッケローニ監督はフィジカル強化と並行して、攻守の基本戦術を1から再徹底。守備ではボールを奪う位置や各々のポジショニング、攻撃面ではビルドアップやパスをつないでシュートまで持っていく形などが繰り返し確認されていた。

 その中で、最も注目されたのが、2年3カ月ぶりの代表復帰となった大久保嘉人の起用法だった。彼は初日からほとんどトップ下でプレー。本人も「結局、この合宿ではサイドは一度もやらなかった。トップとトップ下ですね。トップは3チームに分かれた時にやりました」とコメントしたように、現時点で指揮官は大久保をトップ下をメインに使いたいと考えているようだ。

 機動力とフィニッシュの迫力を併せ持つ彼のトップ下起用を、主力メンバーも好意的に受け止めている。パス出し役の遠藤保仁は「嘉人はボールを受けられますしね。(川崎)フロンターレでパスサッカーをやっていますし、圭佑とはまた違う特徴を持った選手。前を向かせてプレーさせたら怖い選手だと思うので、トップ下にそういう状況を作ってあげれば、より彼の持ち味も生かせるのかな」と語る。左サイドで絡みが多かったという香川も「一瞬のスピードだったり、キレっていうのは代表でも一番あるんじゃないかなと。すごく速いし、リズムも合うし、やりやすい。よりスピーディーな嘉人さんの特徴が出ると思う。守備に関しても走れるし、攻守に連動していけるんじゃないかと思います」と歓迎していた。
 確かに大久保がトップ下にいれば、香川とのポジションチェンジで相手をかく乱することができるし、右が岡崎慎司なら、左サイドで相手を引きつけながら、大久保と岡崎が2枚で相手の背後に飛び出すような迫力ある攻撃も期待できる。すでにトップ下として確立されている本田とは違ったバリエーションをもたらすことが可能になってくるのだ。

 ただ、ここまでの積み重ねを考えると、本田がトップ下に入る形がチームのファーストチョイス。大久保はジョーカー的に起用される可能性が高い。ただ、状況によっては本田を前線に上げて、大久保をトップ下に置き、より攻撃的に行く形も考えられる。

 このようにイメージは次々と広がっていくが、本当に機能するかどうかは実戦を見なければ分からない。本田が合流間もないため、今回のキプロス戦は大久保をトップ下で先発させ、長い時間を与えて周囲との連携向上を図ることもあり得る。本人も「自分が新しい攻撃のバリエーションを作れるかどうかは試合次第。それを明後日(キプロス戦)で見せられるかどうか分からないけど、やるために選ばれているんだから、やらなきゃいけないでしょ」と意気込みを新たにした。大久保という劇薬の存在で日本代表の攻撃が活性化されるか否か。そこをキプロス戦では第一にチェックしたい。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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