劇的Vをもたらしたレアル伝統の勝負強さ “アトレティコ”対決制し、デシマ達成

西部謙司

どちらがより“アトレティコ”か

レアル・マドリーがCL10度目の優勝。延長戦にまでもつれ込む激闘を制した 【写真:AP/アフロ】

 シーズン終盤、レアル・マドリーはアトレティコ・マドリーの戦術をコピーしていた。コンパクトで堅固な4−4−2と高速のカウンターアタック、同じ特徴を持つ同士の戦いで有利なのは“本家”アトレティコである。

 クリスティアーノ・ロナウド、カリム・ベンゼマ、アンヘル・ディ・マリア、ガレス・ベイルを擁するレアルのほうが、カウンターの威力では上回っている。同じ戦術で戦力が上回っているのだから、レアルのほうが有利になりそうなものだが、そうではない。この組み合わせでは、ボールを持っていないほうが自分たちのリズムでプレーできるからだ。

 レアルのスピードを警戒するアトレティコは背後のスペースを消して守る。レアルはボールを支配するが、それはアトレティコの得意な形になることを意味する。時には前方からプレスし、多くはディフェンスラインを後退させて、いずれにせよレアルに背後を使わせないアトレティコに対して、レアルは高速カウンターをさく裂させることができない。

 レアルはポゼッションをしても強いチームだが、ポゼッションの権威であるバルセロナでもアトレティコの守備は崩せなかった。シーズン途中まで3トップでプレーしていたレアルとはいえ、“劣化バルサ”では苦しい。史上初のダービーとなったチャンピオンズリーグ決勝。アトレティコはアトレティコとして戦える一方、10度目の優勝(デシマ)を狙うレアルは選択を迫られていた。

流れを変えたアンチェロッティの采配

 アトレティコに戦術的な迷いはなかったが、バルセロナとのリーガ・エスパニョーラ優勝を懸けた“ファイナル”から1週間しか経っていなかった。しかも、エースのジエゴ・コスタが負傷、アルダ・トゥランも故障していた。

 到底間に合わないと思われたジエゴ・コスタは何と先発で出場したものの、わずか9分で交代。カウンターの柱であるエースを失っただけでなく、早々に交代カードを使わなければならなかったのは、120分間の勝負になったことを考えると大きなマイナスだった。

 レアルは“アトレティコ”として試合を始めている。序盤はアトレティコも前がかりにくると予想できたため、相手のミスを引っかければ破壊的なカウンターを繰り出すチャンスは見込めた。しかし、チアゴのミスパスのほかにアトレティコはミスを犯さず、試合は膠着(こうちゃく)し、それはアトレティコのペースだったといっていい。逆にレアルは36分、GKイケル・カシージャスの判断ミスからディエゴ・ゴディンにヘッドで決められ失点。アトレティコはますますアトレティコとなり、レアルは“アトレティコ”ではいられなくなった。

 残り時間30分となったところで、レアルのカルロ・アンチェロッティ監督が動く。左サイドバックをファビオ・コエントランから攻撃力のあるマルセロに交代し、さらにサミ・ケディラをイスコに代えた。

 シャビ・アロンソを出場停止で欠くレアルは、ルカ・モドリッチと組むボランチに長期の負傷から回復したばかりのケディラを先発させていた。ケディラに代えてのイスコ投入により、ボランチはモドリッチ1枚、イスコとディ・マリアを前に出している。中盤の中央を2人から3人に増員し、ベイルも1列上げて3トップとした。

 4−4−2のアトレティコ型に変わる以前のレアルは4−3−3でプレーしていた。ただし、モドリッチを中盤底に置いてイスコ、ディ・マリアと併用したのはシーズン中には見られなかった最も攻撃的な構成である。

 アトレティコが守りきる体勢に入り、ジエゴ・コスタはすでにいない。アンチェロッティは慎重に見えて、必要なときには大胆な采配をする監督だ。2枚替えからレアルの攻撃は厚みを増し、アトレティコのゴールを包囲して攻撃を続けた。

 一方、アトレティコのディエゴ・シメオネ監督も素早くマッチアップを修正したのだが、アディショナルタイムにCKからセルヒオ・ラモスの同点ゴールが決まる。

1/2ページ

著者プロフィール

1962年9月27日、東京都出身。サッカー専門誌記者を経て2002年よりフリーランス。近著は『フットボール代表 プレースタイル図鑑』(カンゼン) 『Jリーグ新戦術レポート2022』(ELGOLAZO BOOKS)。タグマにてWEBマガジン『犬の生活SUPER』を展開中

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント