世界ランク1位の競歩エースが描く青写真 近付くメダル獲得に広がる夢

折山淑美

表彰台ならずもつかんだ手応え

競歩で現在世界ランキング1位の鈴木雄介が描く青写真とは? 写真は昨夏の世界選手権のもの 【Getty Images】

 5月4日に中国の太倉で開催された、ワールドカップ競歩男子20キロ。鈴木雄介(富士通)は、今季世界ランク1位となる1時間18分17秒の記録を持って臨んだ。17キロまでトップ集団を歩いたが、そこから優勝したルスラン・ドミトレンコ(ウクライナ)が一気にペースアップ。鈴木は、徐々に遅れ始めながらも粘り、1時間19分19秒で4位に入った。

 惜しくもメダルを逃したが、「18キロ手前では、トップとは離れていたけど、2位とは10秒差くらいで。それにラスト1周に入る前に、一緒に歩いていたロシア選手が失格になったので、『そのまま行けば3位になれる』と思って自分の中でちょっと油断してしまった。それで後ろから勢いよくきたアンドレイ・ルザービン(ロシア)にうまく付ききれなかったですね。でも、ちょうど注意もいくつか出されていたり、体力的にもきつくなっていて、『追い切れないな』という自分の判断で落とした結果だったので。20秒差だけど、3位とは実力的には遜色ないと分析しています」と納得の表情を見せる。

 それは、これまでのように「一発当てなければメダルは取れない」という冒険を仕掛けるレース展開ではなく、常に集団にいて、時には主導権を握る歩きもする“王道”ともいえるレースをした上での結果だったからだ。

「調子自体も絶好調というのではなく、1時間18分17秒を出した(2月の)日本選手権の方が動きの感覚や心拍数は若干良かったので、その調子を世界大会に持っていけば、確実にメダルを取れる位置に来たという実感を持てました。その意味では展開も含めて自己評価の高いレースになったけど、強いて言えば、前半と中盤でちょっと力を使い過ぎている感覚はあります。それでも10キロから1周8分くらいだったペースが7分45秒に上がった時も(トップ集団に)付けて、その後も7分40〜50秒では押していけました。課題としては、ラスト1周でそれまでのペースを維持できず、8分台に落としてしまったことですね」

 しかし、前半から中盤で力を使い過ぎた部分を修正すれば対応できるという、手応えをつかんだ。
「今回、最後までメダル争いに絡むことができ、金メダルを取る選手はラストに入る手前まですごく余裕を持って歩いているのを知ったことも収穫ですね。銀メダルや銅メダルの選手は中盤で少し力を使っていて、余力を使い切ってゴールする感じなので。今までは優勝争いを見ていなかったからそれを考えられなかったけど、今回はそれを考える経験をしました。最近は練習でも余裕を持ってスピードを出すような意識でやっているけど、それをもっと突き詰めなければ金メダルに届かないという感じですね。モスクワ(世界選手権、2013年8月)の前は後半にスピードを上げることを意識して練習をしていたんですが、今は『試合でいざとなればスピードは出るものだから、前半と中盤を余裕を持って歩く』というイメージで練習していて、その方向性でいくのがベストだとも実感しました」

世界選手権入賞で変化した意識

 中学時代から注目されていた鈴木の、競技に対する意識が変わったのは社会人1年目の10年だったという。調子が良くなく、この年のアジア大会(中国・広州)では5位と惨敗した。そこで「このままダラダラやっていても仕方ない。11年世界選手権(韓国・テグ)か12年ロンドン五輪で入賞できなければ競技を辞めようと思う」と師事する今村文男コーチに申し出た。そこから、それまでよりレベルを上げる練習をしたことで、11年世界選手権では8位入賞を果たしてロンドン五輪の代表内定を勝ち取ったのだ。

「あの入賞が一番大きな転換点だと思いますね。メダルを狙うとは言っていたけど、それまでは夢であり、手の届かないところにある感じだった。でも、入賞して何とか触れるくらいまでは来られたと感じました。それまではタイムも漠然としか考えてなかったけど、それ以来は1時間18分半、最低でも19分を突破しなければメダルには届かないと考えるようになりました」

1/2ページ

著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント