黒田博樹“最後の意地”で限界説打破へ、ヤンキース浮沈の鍵は39歳の右腕に

杉浦大介

「せいぜい先発3〜4番手」と評される現状

ここまで3勝3敗・防御率4.61と本調子とは言えない黒田。上位進出には黒田の復調が必要不可欠となっている 【Getty Images】

「フォーム的な部分、細かい部分、制球の部分とか、良いときに比べるとあまり良くないゲームがたくさんある。ただ昨年、一昨年も、結果は良くても状態が悪いときはあった。悪いながらも良いピッチングを続けていって、(苦境を)打破していくしかないと思っている」

 日本時間5月19日(現地時間18日)のパイレーツ戦で約1カ月ぶりの3勝目を挙げた直後、ヤンキースの黒田博樹は静かにここまでを振り返った。そのコメントは、ほとんど勝者のものには聞こえなかったのも事実。もともと謙虚な言葉に終始する投手ではあるが、今回に関してはより実感がこもって響いてきた。

 最新の勝利の後でも、ここまでの黒田は3勝3敗で防御率4.61。昨季までメジャー通算防御率3.46の投手としては、もちろん満足できる数字ではない。何より気がかりなのは、黒田は昨年8月18日レッドソックス戦以降の8試合で0勝6敗、防御率6.56と低迷していたことである。

「黒田は見ての通りの投手だ。せいぜい先発3〜4番手で、売り物だった耐久力も消えうせてしまった」

 ニューヨーク・デイリーニューズ紙のビル・マッデン記者の記述は手厳しくも思えるが、これも“What have you done lately?(最近は何をしたの?)”が合言葉のニューヨーカーならではなのだろう。昨季後半から不振を継続し、しかも39歳とまた1つ年齢を重ねた。そんな背景を考慮すれば、黒田の周囲からそろそろ限界説が出始めても仕方ないところなのかもしれない。

火の車状態のヤンキース、鍵を握るのは黒田

 時を同じくして、タイミングの悪いことに、ヤンキースの先発ローテーションはほとんど火の車となっている。
 C.C.サバシア、イバン・ノバ、マイケル・ピネダの3人が故障離脱し、開幕時の先発陣の5人中3人が不在。中でもエースのサバシアは防御率5.28と乱調だった上に、右膝痛で6週間離脱と発表され、復帰後もどれだけ貢献できるかは定かではない。こんな非常事態で、それでも現在のヤンキースが地区首位に近い位置にいることが信じられないくらいである。

 今後、穴埋めにフィリーズのクリフ・リー、カブスのジェフ・サマージャといった先発投手をシーズン中にでもトレードで取りにいくか。それともサバシア、ピネダらの復調を辛抱強く待つか。

 これから夏に向けて、ヤンキースは再び激動の季節を迎えそうな予感が漂っている。そして、何らかの改善が成されるそのときまで、残った日本人デュオに莫大(ばくだい)な重圧がかかることになる。

「(田中将大と黒田が)最後のとりでだ。現在の先発陣の中では彼らがベテランだからね。田中は(メジャーでは)ルーキーだけど、キャリアを通じて先発を務めてきて、やるべきことは分かっている。黒田の(19日の)パフォーマンスも喜ばしく思っているよ」

 ジョー・ジラルディ監督の「the last line of defense」という大げさな表現は、正直な思いの吐露だったはず。その2人のうちでは田中にばかり注目が集中しているが、筆者個人としては、鍵を握るのは黒田ではないかと考えている。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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