錦織圭が立つ険しい旅路のスタートライン 全仏を「トップ5」への足掛かりに

内田暁

トップ10入りも「あまり気にしていない」

錦織圭がトップ10プレイヤーとして初の四大大会となる全仏オープンを迎える 【Getty Images】

 彼はいつも、そうだった。
 松岡修造氏が持つ46位の日本人最高ランキングを越えた時も、自身が目標に掲げていたトップ30に届いた時も、あるいは、ずっと対戦を切望していた「憧れ」のロジャー・フェデラー(スイス)と2011年のバーゼル大会決勝で初対戦した時も……。
 錦織圭(日清食品)は、目指していた地位に到達するたびに「まだ、ここではない」との思いを新たにし、届いた満足感よりも、常にその先への渇望を口にしてきた。

 今回も、そうである。去年から「難しいことだけれど」と自認した上で狙い、目前に迫りながらも厚い壁にはね返され、そうして今年、再挑戦の末についに至った“トップ10”。だがそんな高みですら、錦織に達成感を与える場所にはなりえなかった。

「トップ10は数字なので、あまり実感はない。入れ替わりもあるので、あまり気にしていないです」
 5月のマドリッド・オープンを終え、実際にランキング9位を記録したその翌日、錦織は素直な所感を口にした。そして彼は、こうも続ける。
「次は、トップ5が目標です」

トップ5の壁は四大大会制覇へのハードル

 5月25日に開幕する全仏オープン(フランス・パリ)は、錦織がトップ10プレーヤーとして最初に挑む大会であり、次なる目標として掲げるトップ5入りに向けての足掛かりとなる大会でもある。

 現実的な話をすれば、この大会後に錦織がトップ5になる可能性は、まず無いと言っていいだろう。現在の男子のランキングをポイントで見ると、5月25日現在、9位から13位までは530ポイント内に5選手がひしめきあうが、現在10位の錦織と8位のアンディ・マレー(英国)の間には、1305ポイントもの開きがある。これは、グランドスラム準優勝者が得られるポイント数よりも大きい。ついでに言うならば、5位のダビド・フェレール(スペイン)との差は2215。これは、グランドスラム優勝で得られる2000ポイント以上のポイント差だ。

 もちろん錦織本人も「1年くらい(10位以内を)維持すれば、実感も湧くと思います」と言っているように、性急にトップ5を欲している訳ではない。ましてや、トップ10すらも「単なる数字」と見なすようになった彼にとって、“5”というランキングが、数字上の特別な意味を持つわけでもないはずだ。

 では、トップ5とは、何の指標だろうか?
 それは“グランドスラムを制するポテンシャルの証明”だ。例えば、現在のトップ5の選手を見ると、5位のフェレールを除いた全員が、グランドスラム優勝の経験を持つ。先ほど8位と10位の間には大きなポイント差があることに触れたが、8位以上の選手は全員グランドスラム決勝進出経験者。錦織が次に挑む8位の壁、そして5位の壁とはそのまま、グランドスラム決勝進出、そして優勝のハードルと言い変えることができるだろう。

 いみじくも現在2位のノバック・ジョコビッチ(セルビア)は、錦織のトップ10入りに関して「トップ15、そしてトップ10へと入ってきたのは素晴らしいが、次のトップ5が最大の難関となる。5位以内に入るには、常に高いレベルでプレーし続け、ケガ無く過ごさなくてはならない」と指摘した。2週間前のマドリッド・オープン準優勝の後、股関節やでん部に痛みを抱えローマ大会を欠場した錦織にとって、この「ケガ無く過ごす」ことは最大の関門。その課題とあらためて向き合う意味でも、今回の全仏オープンは、トップ5への距離感や道筋を見極める大会にもなるだろう。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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