ようやく世代交代に着手した全日本男子 急成長の深津英臣が新司令塔をつかむか
「宇佐美の後継者」という重圧を乗り越え日本一に
深津(左)は個人でもVリーグ最優秀新人賞を獲得。2人のブラジル人の指導のもと、この1年で大きく成長した 【坂本清】
「宇佐美さんは、プレーがうまいのはもちろん、周りの選手に与える安心感が違った。自分とはレベルが違うので、比べずに、自分は自分らしくやりたい。でも、宇佐美さんがいなくなったからパナソニックが弱くなったと言われるのは絶対に嫌です」こう言って負けん気をのぞかせていた。
その深津がこの1年で大きく成長する助けになったのが、パナソニックで出会った2人のブラジル人だった。1人は、アドバイザーを務めたドス サントス・ジョセ フランシスコ(シーコ)。ロンドン五輪までブラジル代表でコーチを務めた人物だ。パナソニックの監督だった南部は、彼に深津の育成を任せた。
初めて深津を見た時、「どこまでいけるかなと、正直不安でした」とシーコは明かす。しかし、彼の予想を超える急成長を深津は遂げることになる。シーコがつきっきりで、深津は毎日1時間に及ぶトス練習を重ねた。みるみるうちに精度は上がり、最初は直径1メートルほどだった的がどんどん小さくなっていった。バックトスを上げる際、体を後ろに反る癖があったが、それでは相手ブロッカーに見破られてしまうからと徹底的に修正。またシーコは相手のブロックを見るようにと口酸っぱく指導し、試合中もコートの外から容赦なく怒鳴り声を飛ばした。
「私はブラジル代表で(アテネ五輪金メダリストの)リカルドや(現代表の)ブルーノたちいろいろなセッターと練習してきましたが、オミ(深津)ほどうまくなりたいという気持ちが強くて、自分から努力するセッターはいなかった。他にこれほど努力する選手を挙げるならジバです。オミにも彼と同じような姿勢があります」
エースとしてブラジルを幾度も世界一に導いたレジェンド、ジバ(ジルベルト・ゴドイフィリョ)を引き合いに出すことからも、深津への期待の大きさがうかがえる。
金メダリストのスパルタ指導
パナソニックではウイングスパイカーへのトスの速さを3段階か4段階に分けていて、パスが崩れた時は、とっさにスパイカーがどの速さのトスが欲しいかを深津にコールするのだが、ダンチはいつも、深津が「これくらいかな」とイメージするトスよりも一段階速いトスを要求した。
「『ここからじゃ無理でしょ』と思うのですが、実際に上げたら打ってくれる。僕が勝手にストッパーを作ってしまっているのかもしれない」と深津が話したことがある。無意識に作ってしまっていた限界を、ダンチが強引に取り除くことで、深津は引き上げられていった。ダンチは言う。「オミのようにまだ若いセッターがあれだけ速いトスを上げるのは難しいこと。だけど、彼ならできると信頼しているから、そういうトスを要求できるんです」
星城高ではインターハイと国体で優勝し、東海大でも全日本インカレ優勝を経験。高校、大学で日本一を獲得してきた深津が、Vプレミアリーグでも1年目で日本一を経験した。
次は世界だ。
初めて全日本の合宿に参加したばかりだったが、「全然問題ありません。自信がないわけではないですし、勝つためにどうしたらいいのかということに集中している。世界のブロックは穴がほとんどないので、ピンポイントを狙って打たないと決まらない。だからもっともっとトスの精度を上げないと」と、23日に開幕するワールドリーグを見据えた。身長180センチと上背はないが、それを補うトスワークとディグ力を磨き、日本の新司令塔の座をつかみにいく。
日本はまずアウェーでドイツ、フランス、アルゼンチンと戦い、その後ホームで3チームを迎え撃つ。日本での初戦は6月14、15日のアルゼンチン戦(愛知・パークアリーナ小牧)。南部新監督の目指す新生ジャパンの形や、新戦力の活躍に注目したい。