君島良夫、30歳で異例の海外挑戦 大企業の安定を捨て、新たな道に

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「今は情熱が全然違います」

 30歳にして、NTTという大企業に勤める安定を捨て、新たな道に踏み出す。言葉にするのは簡単でも、実行するには勇気が必要とされる決断だろう。

「もともと、僕はラグビーの熱を大学(同志社)で使い切った思いもあって。当時は下部リーグ所属だったNTTで、ラグビーを数年やって引退するのかな……と思っていたんです。それが入部後にグループの強化指定部となってトップリーグを目指すことになり、環境がどんどん整備されていきました。そこで『またトップレベルでラグビーができるって、なんてラッキーなんだ』と、考えが自然に切り替わって結果も残すことができました。

 今回の件もショックでしたが、『辞めろ』と言われたことで、ラグビーがものすごく好きだと気づけた。『ラグビーをするためならなんでもやろう』とスイッチが入ったんです。今は情熱が全然違います。ピンチはチャンスでしたね」

 環境が変わっても自分を保ち、人生のポジティブな面を探す君島。中学時代にはサッカーでブラジル留学を経験し、大学、社会人と進む際も「ルートのない道」を選んできた。
「意識していたわけではないですが(笑)、新しい道が好きなのかもしれません。そういう意味ではこれからもすごく楽しみです」

ルーティンのない「バーを越える」キック

 計算や常識よりも、感覚を重視してきた。その姿勢は、グラウンド内のプレーにも表れている。

 選手として君島の最大の武器となる正確なキック。通常、ゴールキックを蹴る際は、「何歩下がって、どう体勢をつくって……」とルーティンを大事にする選手が多いが、君島には決めごとがないと言う。
「フィーリングを大切にしています。ラグビーの場合はゴールのバーを越えればいいので、蹴る位置からゴールを見て、越えるために必要な蹴り方をします」
 事実、多くの選手は同じ強さで蹴るため、近い距離から蹴るとボールが客席に入ることがあるが、君島は「近ければ優しく、遠ければ強く」蹴るため、測ったようにボールがバーを越えたところに落ちる。極めて、調整能力に優れたキッカーなのだ。

新たな挑戦が始まる

 ビザを取得し、退職手続きを終える6月にはオーストラリアに渡る。「結婚していたら決断できなかったかもしれませんね(笑)。いろいろな流れがちょうど良かったんだと思います」。

 周囲や世間体に流されるのではなく、水が流れるように自然に生きてきた。30代になって大企業を辞め、プロ契約ではなく、自費で海外挑戦をするのは異例のこと。この話を聞いて、止める者がいるだろうし、笑う者もいるだろう。しかし、少年のような笑顔で未来を語る君島の明日は、きっと、輝いている。

(文・安実剛士/スポーツナビ)

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