なでしこ、W杯出場決定も満足せず アジア杯制覇へ向けて、3戦を振り返る

江橋よしのり

あっけなく感じたW杯出場決定

第1戦のオーストラリア戦こそ、2点のビハインドから辛くも引き分けに持ち込む展開となったなでしこだが、続く2戦・3戦は力の差を見せつけグループステージ1位突破を果たした 【Getty Images】

 なでしこジャパンが2015年にカナダで開催される女子ワールドカップ(W杯)への出場を決めた。5月14日にベトナム・ホーチミン市で開幕した女子アジアカップはW杯予選を兼ねており、参加8カ国のうち5カ国に与えられるW杯出場権は、18日までに日本、オーストラリア、中国、韓国の4カ国の手に渡った。日本のW杯出場は1991年の第1回大会(当時の呼称は女子世界選手権)から7大会連続となる。

 なでしこジャパンが世界一になった前回の11年ドイツ大会で、女子サッカーの競技力とエンターテインメント性の向上が確認されたことに伴い、15年大会からはW杯の規模が拡大されることになった。出場国は16から24に増え、アジア枠も前回の3から5に拡大された。同時に、北朝鮮がアンチドーピング規定違反により15年大会の参加資格をFIFA(国際サッカー連盟)から剥奪されたため、アジア上位勢にとって予選突破の条件はかなり緩くなった。

 過去をひもとけば、なでしこジャパンはW杯予選をギリギリで勝ち上がってきたものだ。03年大会当時のアジア枠は2.5で、3番目のチームは「敗者復活戦」とも言える大陸間プレーオフを行った。日本はアジアを勝ち残れず、メキシコとのプレーオフに最後の望みを懸けた。国立競技場で行われたプレーオフ第2戦では、当時アメリカリーグに所属していた澤穂希と、日体大の学生だった丸山桂里奈がゴールを挙げ、W杯行きの最後の切符をつかみ取った。続く07年大会でもメキシコとの大陸間プレーオフに回り、第1戦で澤と宮間あや、第2戦で荒川恵理子がゴールを決めて勝ち上がった。そしてアジア枠が3に増えた前回大会でも、日本は予選開催国である中国との3位決定戦でなんとか勝利をものにした。

 これら3度のW杯出場決定の瞬間には、筆者も過度の緊張から解き放たれて、膝の震えを抑えられなかったものだ。ところが今回は、控えメンバー中心でヨルダンに7−0と圧勝。予選突破をこれほど「あっけない」と感じたのは、初めてのことだ。選手たちも、W杯出場を喜ぶ特別なパフォーマンスを行わなかった。試合終了直後、ベンチ前でペットボトルの水を掛け合う「ウォーターファイト」を行うこともなく、代わりに、ヨルダン戦に出場しなかった選手と出場時間の短かった選手たちは、宮間キャプテンの掛け声とともにボール回しの練習で体を動かしていた。

「試合終了のホイッスルは、次の試合への準備の合図である」と、日本サッカーの父、デットマール・クラマー氏は言った。その精神は、現代のなでしこたちにもしっかりと受け継がれている。

課題が露見したオーストラリア戦

 ここからは、今大会(アジアカップ)これまでのなでしこの試合ぶりについて振り返りたい。

 初戦の相手は前回アジア王者のオーストラリアだった。オーストラリアは約1カ月前に、選手たちからの強い要望を受けた協会が、オランダ人女性のヘステリネ・デ・ルース監督を解任。シドニーFC(女子)のアレン・スタジック氏を暫定監督としてアジアカップに臨んでいた。

 オーストラリアは日本戦の先発に20歳以下の選手を5人起用した。日本は、佐々木則夫監督が「立ち上がりが悪かった」と振り返ったとおり、攻守の切り替え、局面でのスプリントで後手を踏み、ボランチが前を向けずビルドアップがままならない。高い位置からのプレスも、相手のGKを含めたポゼッションの前で空回りした。すると22分には「対応を準備していたが、予想以上だった」(佐々木監督)という19歳のFWフォード(11年女子W杯のベストヤングプレーヤー賞)に約40メートルのロングドリブルを許し、失点した。

 ハーフタイムを挟んで2点目を奪われ0−2とされたものの、先にスタミナが切れた相手から日本が主導権を奪い返し、反撃に出た。劣勢の展開からの粘り強い精神は、健在だった。川澄奈穂美のシュートが相手オウンゴールを誘い、終了間際には大儀見優季がゴールを決めて引き分けに持ち込んだ。

 この試合の収穫は、追いつく過程で、強い圧力を掛けてボールを奪いにくる相手守備に対して、日本の中盤がある程度自由な空間を創り出すことができたことにある。佐々木監督は「相手のハードワークが緩んだからではないか。われわれが技術・戦術的に解決したとは思っていない」と、試合直後にコメントしている。確かにそういった側面はあるのだが、筆者には宮間の適応力が印象的だった。

 宮間は試合途中から、ボールを受ける際に「自分が行きたい方向」とは逆の向きにトラップして相手をおびき寄せると、鋭く方向転換してパスを通す空間を作っていた。宮間は12年のロンドン五輪以降、対戦相手からかなり警戒されるようになり、思うようなパス出しができずに苦しむ時期が続いていた。ところが最近、特にこのオーストラリア戦は、ボールを受ける動きにひと工夫を加えることによって、相手の裏をかくことに成功している。宮間自身もその判断と実行に一定の手応えをつかんだようだ。「私がそうやってみせることで、周りの選手にも『できるんだよ』ということを伝えたかった」と、さらりと語るプレーは、一朝一夕に身につくものではない。彼女自身が失敗を糧に、時間をかけてつかみ取った武器だ。

 また、オーストラリア戦では守備面での課題が露見した。それは相手のスプリントへの対応なのだが、このポイントについては決勝トーナメントを見てから、あらためて検証したい。

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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