ブラジルW杯を目指した中村憲剛の4年間 落選の悔しさとサポーターの応援を胸に

元川悦子

落選後の素直な心境を吐露

W杯メンバーから落選した中村憲剛。発表翌日に自身のブログで心境を吐露した 【Getty Images】

「ブラジルワールドカップで戦う日本代表23名から落選しました。やっぱり自分にとってブラジルW杯というのはとてつもなく大きなウェイトを占めていたものだった。そこに行けないって決まった時のあの喪失感は一生忘れられないと思います。

 ただ、どんなに最高な日でも、どんなに最悪な日でも、必ず次の朝は来るわけで。練習があったり、試合があったり、奥さんと話したり、子どもたちと話したりと日常に触れていきながら、少しずつこの事実を消化して行けるのかなと。

 今まで辿ってきた道は間違っていなかったと思うし、やってきたことに悔いは一切ない
<一部略>」

 12日の日本代表発表会見でブラジル行きのメンバーから漏れ、翌日のブログでその胸中をストレートに吐露した中村憲剛(川崎フロンターレ)。彼の心の叫びは人々の心を打った。本人も反響の大きさに驚くと同時に深く感謝し、次なる戦いへと向かった。だが、14日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)・FCソウルとの第2戦は2−1で勝利したものの、1点が足りずに8強進出を阻まれた。だからこそ、今季J1中断前のラストマッチとなった18日の横浜F・マリノス戦ではどうしても結果が欲しかった。

 まぶしい太陽が照りつけた等々力陸上競技場での試合前、ホーム側のスタンドには「GO KENGO」という特製横断幕と、背番号14の巨大なユニフォームが掲げられた。

「(ブラジル行きが決まった大久保)嘉人が先のはずなんだけど、声をかけてもらってホントに感謝してるというか、震えるというか……。その思いに報いたかった」と中村憲剛は闘志をあらわにした。

高い意識で不測の事態に備える

 その言葉通り、彼は満身創痍(そうい)の体を張ってプレー。一回り大きい中澤佑二を削りに行くような激しい当たりも見せた。攻撃面でも大島僚太とのパス交換から大久保やレナトらにチャンスボールを供給するが、この日の川崎はACLの影響でさすがに全体が重く、出足が鈍い。相手とのコンディション差は明らかだった。その強みを横浜FMは前面に押し出し、栗原勇蔵、伊藤翔、中澤が続けざまに3ゴール。本拠地で0−3というまさかの敗戦を喫した。

「ここ数試合に比べたら、自分が持った時に顔を出す人間と動き出す人間が少なかった。いつもだと複数人が顔を出してくれるのに、みんな疲れていたり、マークされていたりで出しどころがないまま、俺もボールを触られたりつぶされたりしていた。今日は全体に運動量が足りなかった。これだけの人に応援してもらったのにショックというか情けない。ホント、自分の力不足を感じてます」

 J2降格危機に瀕していた昨季に比べればまだいいものの、14節終了時点で暫定8位(川崎はACLのため消化が1試合少ない)という順位も中村憲剛にとっては納得できない位置だろう。ただ、今は何事も切り替えるしかない。W杯の予備登録メンバー入りしている彼はまず1週間の休養を取り、その後、自主的に調整して不測の事態に備えるようだ。

「考えられないくらいの連戦だったし、中途半端に休むよりは1回しっかり休む方がいいと思う。その後は麻生(川崎の練習場)も空いてるだろうし、ボール感覚はこれだけ試合をやってるから大丈夫だし、しっかり汗を出して、肺を動かせればと思います」

 自分の複雑な立場というのをいったん封印し、彼は責任感を強く持って、自らのコンディションを維持していくという。現在の23人にアクシデントが起き、米国やブラジルへ赴くことになっても、高い意識を持つ中村憲剛なら問題ないはずだ。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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