必要不可欠な命題――ACLを奪還せよ。 Jの真価が問われるアジアでの戦いぶり

二宮寿朗

キーワード3:ACLの価値

ラウンド16の第1戦、広州恒大にホームで1−5と大敗を喫したC大阪。アウェイでは1−0と勝利し一矢報いたが…… 【写真:Imaginechina/アフロ】

 “王座奪還”に向かっていくには、Jリーグ、クラブの本気度もかかわってくるように思う。何も、近年のチームが本気で臨んでいない、などと言っているのではない。真剣に取り組んだ末の敗退だったことを踏まえたうえでの、話である。ただ、気になっているのは、過去、浦和レッズやG大阪が優勝したころの「のどから手が出るほど欲しいタイトル」に近い位置づけが、どうも下がっているように感じてしまうのだ。

 現在はリーグ戦のプライオリティーが高く、油断してしまえば強豪といえどもJ2に降格してしまう時代である。ACLに全精力を注いでしまえばダメージを被る可能性もあるだろう。ただ、リーグ戦と同等のプライオリティーをクラブが感じていけるような働きかけという要素も必要になってくるのではないかと感じる。

 Jリーグからの後方支援として、アウェー遠征の渡航費をグループリーグで8割補助している。準々決勝以降進めば、協会からも強化費が支給される。これによってクラブは費用を強化に回すこともできる。また、対戦相手の映像を提供し、協会とJリーグは現地にサポートスタッフを派遣。事実、今季出場した横浜FMのスタッフも「Jリーグ、協会のバックアップにはかなり助けられた部分が多い。以前(ACLに参加した際)はクラブ任せのところが少なくなかったが、今はアウェーに行ってもストレスがない状況をつくってくれている」と感謝していたほどだ。クラブの負担を強いられるACLから、負担のかからないACLになっているのは大きなプラスポイントだ。

 ただ、Jリーグの支援がクラブの本気度に火をつけるに至っているかどうかはまだ定かではない。JリーグはA契約選手の登録数をACL出場チームだけ2枠増やして「27」にもしているが、積極的な補強に踏み切るクラブはそう多くはない。

 リーグとしては援助もさることながら、もう一度、ACLの価値をクラブに再認識させる必要もあるように感じる。そこにはメディアへの露出も含めて、対外戦略も必要だろう。サポーターも今以上に盛り上がっていけば、それがクラブを後押しするものにもなる。リーグ戦と同等のプライオリティーを植えつけていくということを、考えていくべきではあるまいか。

ACLは絶対に獲りたいタイトル

Jリーグ常務理事である中西大介氏は、ACLは“Jリーグの実力を証明する大会”と位置づけ、タイトル獲得への意欲をみせていた 【写真は共同】

 以上の3つのポイントを踏まえながら、Jリーグの常務理事である中西大介氏にも話を聞いた。

――3チームがラウンド16に駒を進めながらも、全滅してしまった今季の大会をどのように捉えていらっしゃいますか?

 ACLのタイトルを奪還するために、Jリーグとしてのサポートを二段階に分けて考えました。過密日程の中でのグループステージを1クラブでも多く突破してもらうことと、ディテールが勝負を分かつ実力拮抗(きっこう)のノックアウトステージを、180分をマネジメントしながら勝ち進むことの二つに、タスクとしては分かれます。前者は日程や金銭的なサポートで何とか乗り切ったが、後者はうまくいかなかった。結果として、全クラブがラウンド16までに敗退。どうして結果が出なかったのかは、これから追究していかなければなりません。

――タイトな日程でしたが、Jリーグとしてはギリギリの線ということでした。

(Jリーグの)実行委員会でもどうすればいいか何度も話し合いましたし、日程調整についてはリーグとしても十分に配慮したつもりです。Jリーグや協会が支援したことがどれほど効果を持ち、コンディションを助けたのかどうかを含めて、今回の結果を受けてまたいろいろと考えていかなければならないとは思っています。成果の一つとしては、たとえば金曜日にリーグ戦を持ってきた川崎は、興行を考えれば相当な覚悟もあったはずです。それでもサポーターにACLを勝ち抜くための金曜日開催だと理解してもらったうえで、クラブとファン・サポーターが一体となってACLに戦っていく姿勢が見えました。

 しかしながら、Kリーグの日程もJリーグとほぼ変わりませんし、その中で彼らは3クラブがグループリーグを突破して2チームがベスト8に進出しました。Jクラブも、広島などを見てもそうですが、以前よりうまくやりくりして戦っていました。タフなスケジュールもさることながら、(敗因については)様々な面から見ていく必要があると考えています。クラブ側からの検証もあるでしょうが、リーグとしてもディテールを追究していきたいと思っています。

――「東」エリアは日本、中国、韓国が主軸ですが、オーストラリアのチームは今年もベスト8に進出しましたし、タイなど東南アジアにも勢いが出てきています。

 環境の違うアジアの戦いではアウェーでポイントを取るのがなかなか難しい状況です。全体的に出場クラブのレベルが上がってきていて、楽にグループステージを勝ち上がることができる時代ではなくなっています。だからこそ、ホームゲームというものがとても大事になってくると個人的には考えています。

――結果を残せていない要素として、日本のクラブが持っているACLに対する価値感が、以前に比べると下がってきているようにも感じますが?

 ACLの価値を高めていくことは大事です。賞金のアップを含めてAFC(アジアサッカー連盟)に対しては、もっともっと魅力あるトーナメントになって、クラブにも選手にも見返りがあるように、積極的な意見をしていきたいとは考えています。欧州ではその魅力があるから、チャンピオンズリーグに出場できるよう各クラブが力を入れているわけですから。

――最後に、JリーグがACLに力を入れる理由を教えてください。

 村井(満)チェアマンも言及しているように、このタイトルはJリーグの実力を証明するものでもあります。今回、FIFAワールドカップブラジル大会のメンバーにJクラブから11人のメンバーが選ばれたように、彼らは、欧州でプレーする選手に決してパフォーマンス面で劣っているわけではなく、世界的にひけを取らない実力を持っているのだと確信しています。そのエビデンス(証拠)という意味でも、ACLは絶対に獲りたいタイトルなんです。今年の反省を生かして、来年こそタイトルを取れるように、Jリーグとしては引き続きできる限りの支援をしていきたいと思っています。

 来年からJリーグの2ステージ制が復活し、日程面の調整がますます難しくなってくる可能性がある。とはいえ、既にテレビ中継を始めている東南アジアにおけるJリーグの価値を高めていくという意味でも、ACLでの躍進はマストになってくる。

 結果が出ていないこの難しい局面をどのように乗り越えていくか。出場クラブの取り組みのみならず、Jリーグのより強いリーダーシップも求められるところである。

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著者プロフィール

1972年生まれ。愛媛県出身。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。格闘技、ボクシング、ラグビー、サッカーなどを担当。2006年に退社し、文藝春秋「Number」編集部を経て独立。著書に「闘争人〜松田直樹物語」「松田直樹を忘れない。〜闘争人怯扮鵑両蓮廖覆箸發忙葦表駛次法◆峅田武史というリーダー 理想を説き、現実を戦う超マネジメント」(ベスト新書)、近著に共著「サッカー日本代表 勝つ準備」(実業之日本社)がある。WEBサイトではNumber WEB内にて「日本代表、2014年ブラジルへ」を連載中。

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