成長著しい猶本光が今季“覚醒”の理由 浦和好調の立役者がなでしこで試される

江橋よしのり

浦和開幕ダッシュの原動力

浦和開幕5連勝の立役者となった猶本。なでしこ佐々木監督も「決定的な仕事ができている」と評価 【写真:アフロスポーツ】

 2014年の女子サッカー「なでしこリーグ」は3月29日・30日に開幕し、6試合を終えた時点で約1か月の中断期間に入った。シーズン序盤の主役となったのは、浦和レッズレディースだ。浦和は開幕戦でリーグ3連覇中のINAC神戸を破るなど5連勝でスタートし、第6節で岡山湯郷ベルに敗れたものの首位をキープしている。

 その浦和をけん引するのは、著しい成長ぶりを見せる20歳のMF猶本光だ。開幕戦で約30mのロングシュート(これが自身のリーグ戦初ゴールとなった)と、相手クリアを拾ってのボレーシュートで2得点を挙げると、続く第2節でも鋭いドリブルからPKを獲得し、自ら決めて今季3点目。シュートシーン以外でも、出足の鋭い守備、味方からパスを引き出す動きなどで光る活躍を見せている。昨季のリーグ戦出場数がわずか4試合、得点もゼロだったことを考えれば、猶本は今季まさに覚醒した。

覚醒の理由は二重トレーニング生活

 1994年3月3日生まれの猶本は、小1の時に兄の影響でサッカーを始めると、07年、中2で当時なでしこリーグ2部の福岡J・アンクラスに登録され、なでしこリーグカップ3試合に出場。高校生になった09年にはリーグ戦にデビューし、翌10年にはU−17日本女子代表のレギュラーとして、女子U−17女子ワールドカップ(W杯)準優勝を果たした。

 12年3月に高校を卒業すると、「サッカーに役立つ勉強、研究をしながら、なでしこリーグでもプレーでき、さらに引退後にも自分の中に残る何かを身につけたい」という理由で、筑波大学に進学。同時に福岡から浦和へと移籍した。

 猶本という好素材のつぼみが開いた要因は、大学とクラブの二重トレーニング生活にある。筑波大に通いながら浦和でプレーするのは、なでしこジャパンの先輩であるFW安藤梢、DF熊谷紗希と同じだ。3人は今もシーズンオフなどに合同トレーニングを行っている。合同トレーニングには、評判を聞きつけた乾貴士(フランクフルト)や原口元気(浦和)など、男子選手が参加することもあったという。

 大学でのトレーニングのテーマは、個人の能力を伸ばすことだ。「世界水準の選手になること」を大きな目標に設定する猶本は、浦和の中心選手に定着することを目指す過程で、サッカーの技能の予習・復習にあたる個人能力の強化を筑波大に求めた。

 大学でのトレーニング内容について、今から約1年前に話を聞く機会があった。彼女の説明は「1歩目から加速できるような体の力の伝え方や、自分の体を支える筋肉の強化。その先に、自分の体を速く動かしながらボールを扱う技術や、ボールを置いたら素早くシュートを打つ技術などを習得する」というものだった。単にメニューを羅列するだけでなく、「何のための練習なのか」という目的もセットにして話したことから、猶本は物事を筋道立てて考え、理解する習慣の持ち主なのだと、その時に感じた。

 実際、高校卒業時に進路を決める際、国立大学への進学が念頭にあったというとおり、彼女は頭脳も明晰なのだ。本人は「人見知りもするので、人とのコミュニケーションが得意だとは思っていません」としながらも、「自分で考えていることは自分の中でちゃんと言葉にできているとは思います」と自己分析し、「作文は小さい頃から得意でした」と付け加えている。

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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