叔父・弘樹氏が実現ならず、井岡一族にとって悲願であるボクシング３階級制覇を狙った井岡一翔（井岡）だが、ＩＢＦ世界フライ級王者アムナット・ルエンロン（タイ）に敗れ、夢の成就は先送りとなった。井岡を阻んだ階級の壁、そしてアムナットのムエタイ技術。

　試合が始まると１６３.６センチと井岡（１６５.２センチ）より１.６センチ身長で劣るアムナットだが、体重の戻し幅で上回るか、逆に井岡より大きく映る。リーチでは１６８.４センチの井岡に対しアムナットは１７７.２センチと９センチ上回り、１Ｒから懐を深くしアウトボクシングを展開する。

　これが初のフライ級戦となった井岡だが、アムナットが恵まれたリーチから繰り出すジャブはスピードとキレがあり、容易に接近を許さない。ジャブで距離を保ち放ってくるアムナットのロングフックや右ストレート、左右アッパーも威力があり、井岡はこれまでの階級とは異なるパンチの強さに接近を難儀するのが感じられた。

　試合中盤からそれでも接近を強めた井岡だが、アムナットは井岡の攻めをクリンチでたびたび分断。そのクリンチも井岡が打ってきたところを長い手で絡め取り、あるいは自ら打って井岡にパンチをブロックで拾わせ、そこをクリンチと巧みな使い分け。

　井岡はジャブに続いて振るわれるアムナットの強打を警戒してディフェンスがブロック一辺倒となったが、アムナットもそれを序盤で見て取ったか、パンチをブロックさせその後で組みに行く様はさながらムエタイ戦士が首相撲へ行く動きを見るかのようだった。

　さらにアムナットはクリンチへ出てレフェリーがブレイクを掛けないと見るや井岡をプッシュ、あるいは横へ回してパンチで追撃と、ムエタイで２００戦以上、ルンピニー王座も奪取したと伝えられる老練な戦いを見せる。試合中には首相撲で崩すように足を掛けて見えた場面もあり、度重なるクリンチにレフェリーは反則で減点１を与えたが、この減点も計算の内であったか。その後もアムナットは反則を取られない程度に終了までクリンチを使い続けた。

　試合終盤はすでに勝利を確信したか、これもムエタイ流に“流し”へ入ったかに感じられたアムナット。井岡のボディー打ちもありスタミナの消耗が見られたが、攻撃をやり過ごして試合を終えるのがムエタイ時代から手慣れたものであるなら、終盤でとらえるのは難しかった。

　膨大な数の実戦を重ねる中で身に着けた老かいさ。そんなムエタイ譲りの技と試合運びで、アムナットが井岡を下して見えた試合だった。