“世界最高峰”両翼の進撃を止めたレアル システム変更とSBとの連携で攻撃を寸断

中野吉之伴

ペップ・バイエルンに求められる両翼の役割

ベンゼマのゴールでレアルが1−0の勝利。有利な状況で王者バイエルンとの第2レグを迎える 【Getty Images】

 レアル・マドリーが本拠サンティアゴ・ベルナベウに昨季王者バイエルン・ミュンヘンを迎えたチャンピオンズリーグ(CL)準決勝第1レグは、カリム・ベンゼマのゴールでレアル・マドリーが1−0の勝利を挙げた。バイエルンの代表取締役カール=ハインツ・ルンメニゲは試合前に「われわれは向こう(スペイン)でラ・ベスティア・ネグラ(漆黒の獣)の異名を付けられているが、今回も再びラ・ベスティア・ネグラであることを証明しなければならない」と語っていたが、レアルの堅い守備を攻略することはできなかった。

 バイエルンの両翼にはアリエン・ロッベンとフランク・リベリという世界最高峰のドリブラーがいる。しかし単独ですべてを何とかできるわけではない。スペースがある中で1対1の状況を作られると怖いというのは対戦相手も重々承知している。彼らが持つ偉大な個の力を最大限に生かすためにはチームからのサポートが必要不可欠だし、同時にチームのリズムを作りだすために、彼らからのチームへのサポートも欠かせない。特に密接な関係を持つSBとの連携がなければ機能しない。

 ポゼッションを重視し、テンポの良いパス回しから相手の急所を射抜いていくジョゼップ・グアルディオラ監督のバイエルンでは、リベリとロッベンは常にドリブル勝負を仕掛けるのではなく、スペースに顔を出してパスを引き出し、奪いに来たら簡単にパスをはたいて相手を走らせることも求められている。彼らが相手マークを引き連れ、できたスペースに周りの選手が飛び込み、それを繰り返しながら相手守備を崩していく。ボールサイドで数的有利な状況を作り出し、相手にパスの意識を持たせておいてから、ドリブルで突っかける。チームとしてリズムを作りながら、彼らの突破力も生かすという相互効果がある。

痛かったリベリの不調

 しかしバイエルンにとってはこの日、大黒柱のリベリが本調子ではないのが痛かった。調子が良い時であれば、得意のドリブルで相手を抜き去ったり、味方選手の動き出しにDFの意識が向くと、鋭いカットインでボールを持ち込み、慌ててDFがチェックに来るとあざ笑うようにパスを味方に通したりと違いを生み出す。そんなリベリが19日に行われたブンデスリーガ第31節の最下位ブラウンシュバイク戦(2−0)では、マークに来たMFオマール・エルアビデラウイに1対1の場面でほとんど負けていた。フラストレーションから相手を押し倒してファウルを取られる場面もあった。運動量も1試合でわずかに8キロメートル。あまりの絶不調ぶりにビルト紙採点でも最低の6をつけられていた。

 それでもグアルディオラは「誰でも悪いプレーをすることはある。しかしフランクはわれわれにとって非常に重要な選手なんだ。いつだって気持ちのこもったプレーをしてくれる」とかばっていた。しかしこの試合でもパフォーマンスが急上昇することはなかった。レアル・マドリーの右SBダニエル・カルバハルの密着マークを受け決定的な仕事ができなかった。後半はミスも増え、途中交代している。

重要なリベリとロッベンの距離感

 ロッベンはフィリップ・ラームやラフィーニャとのコンビで攻撃の起点を作り、スペースが少しでもできると切れ味するどいドリブルからシュートチャンスを常に狙っていた。相手が飛び込んでくることができないところにボールを置いてキープするので、相手選手はどうしても立ってしまう。その間隙(かんげき)を縫って飛び出すラームやラフィーニャに好パスを通すシーンもあった。しかし後半は周りのサポートが少なくなり、単独勝負が多くなってしまった。さすがのロッベンも常に2〜3人にケアされては突破し切ることはできない。

 第2レグで勝利し、決勝進出を果たすためには彼らの爆発が欠かせない。バイエルンの攻撃が最も怖いのはリベリとロッベンが近い距離でプレーし、パス交換とドリブルを織り交ぜながら相手守備を追い込んでいく時だ。そしてそれができる時の二人は守備での迫力にもすごいものがある。積極的にボールを追い込み、その勢いを攻撃に反映させていけるかが重要になるだろう。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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