ラグビー日本代表、5つの課題と解決策=ジョーンズHCが語るW杯へのプラン
コーチよりも選手が伝える方が効果的
質疑応答では、参加者から多様な質問が投げかけられた。ジョーンズHCはその1つ1つに丁寧に答えた 【スポーツナビ】
――勝ちにこだわる姿勢は、選手にどのように浸透させていくのでしょうか?
どのような環境を与えるかが重要です。例えばこんなことがありました。2年前、香港と試合をする前の練習のことです。選手たちの態度が良くなかったので、私は練習が始まって15分で終わりにしました。「今日はもう終わりだ。バスに乗っていいよ」と。ただ、選手たちは途中でやめる、練習できないことをとても嫌います。そうすると、練習に臨むにあたって、どのような態度が正しかったのか、彼らは自問自答するようになります。
もう1つ、ジャパンでは5つのグループを作って、それぞれにリーダーシップを発揮する選手を置く仕組みを採用しています。リーダーは責任を持って与えられた役割を遂行していきます。そこで勝ちにこだわる姿勢を浸透させるのです。これは選手が主導すべきで、コーチよりも選手が仲間に伝えることの方が効果があります。
今の風潮として、他者に対して何かを言う、課すことを嫌がる人が多いですよね。昔に比べれば少なくなったと思います。ただ、他者に何かを言うことはすごく大事です。オールブラックス(ニュージーランド代表)の主将リッチー・マコウはそれができる人です。彼は練習から態度で示し、チームを引っ張っていきます。こういう人材を育てていくことが、私たちには求められています。
――選手層を厚くするために、トップリーグをプロ化する必要はありますか?
トップリーグはプロフェッショナルです。私はサントリーで2年間、コーチを務めました。サントリーの選手たちは1週間で9時間くらい働きます。それ以外はラグビーをしているので。サラリーは他のプロスポーツ選手には及びませんが、プロにふさわしい時間と環境が与えられています。これが日本ラグビーの優位性だと思います。
――7人制(セブンズ)と15人制の掛け持ちは不可能なのでしょうか? 藤田慶和(早稲田大)を見ていると7人制での活躍も期待できそうな気がします。
7人制と15人制はまったく違うスポーツです。異なるフィットネスが求められるのです。セブンズは試合時間14分のうち、ボールインプレーは6分です。15人制は試合時間が80分、ボールインプレーは30〜40分です。だから、まったく違うエネルギー、スキルを使います。藤田のような選手はセブンズで大成するかもしれません。そうであれば、セブンズに特化すべきです。ニュージーランドやオーストラリアでは、もし15人制の選手が7人制でのプレーを望んだ場合、9カ月間はセブンズでプレーするというルールを設けています。どちらかに特化する必要があるのです。
子供たちへの指導で大切な3つの要素
私は子供たちをコーチングしたことがないのですが、ラグビーで一番重要なのはスキルです。スキルとテクニックの違いを知ることも大切です。日本のコーチはテクニックばかりを教えます。キャッチパスをとっても、どういうパスをどんなタイミングで出すかを教えるのがスキルです。子供たちに教えるときは、状況判断とセットにする必要があります。アタックを教えるときは必ずディフェンスを置いて、その数を徐々に増やしていきます。困難な状況にしていくのです。練習でミスをしても気にしません。練習はミスをするところだから。そして褒めてあげること。子供たちに対して、エンジョイしてもらう環境をこちらが提供しなければなりません。練習の最後に「また来たいな」と思わせられるか。この3つの要素、スキル、判断、エンジョイがコーチングのポイントになります。
――日本ではラグビースクールから中学、高校、大学と進んでいきます。このシステムをどのように考えていますか?
自分の子供が「日本でラグビーをやりたい」と言ったら、やらせません。ラグビーの本当の楽しさがそこで殺されてしまうからです。戦後、日本は子供たちに学校教育でスポーツを通じて規律を植えつけようとしてきました。それは重要なことだと思います。でも、今は子供たちにエンジョイする心、スポーツを愛する心を持たせなければなりません。日本にはゲームを愛する人が少ないと、いつも感じています。練習しすぎて楽しむ心がなくなっているのです。これは本当に大きな問題です。変わらなければいけません。
あなたにとってラグビーとは?
私はW杯で優勝、準優勝を経験しました。今は日本ラグビーに遺産を残せるように努めています。W杯で世界から尊敬される、そんな素晴らしいチームを作りたいのです。それができれば、自分にとってはメダルを取ったのと同じくらい名誉なことです。
協力:(公財)日本ラグビーフットボール協会