40歳イチローは“理想の控え” 希代の安打製造機に今、求められること

杉浦大介

打率3割7分もスタメンは6試合だけ

イチローが最も存在感を発揮したレッドソックス戦のスーパーキャッチ 【Getty Images】

 最初の16試合を終えた時点で、打率3割7分。この数字だけを見れば、イチローは全盛期の再現を期待させる好スタートを切ったように思える。
 ただ、実際には16試合中でスタメン出場は6試合のみで、27打数10安打に過ぎない。高打率は打数の少なさゆえ……。オフに総額5億ドル(512億円)近くを注ぎ込み大補強を展開したヤンキースの中で、イチローは当初から予想された通りに第4、5の外野手の立場で起用され続けている。

 「昨年からずっとそうですが、想像できない状況に対応すること。それを変わらずに意識している」
 5試合ぶりの先発で2安打をマークした日本時間12日のレッドソックス戦後、控えという役割をよく理解した本人のそんな言葉もあった。
 昨季終了時点でメジャー通算2742安打。引退後の殿堂入りも確実な元スーパースターが、このような立場でいることを、寂しく感じているファンは多いに違いない。不満らしき言葉はまったく出てきていないが、本人ももちろん現在の起用法に満足しているはずがない。

厳しい状況で生まれたスーパーキャッチ

 ただ……。端から見れば厳しいそんな状況下でも、イチローは随所に存在感を発揮している。先発した6試合中、2安打以上が4試合。守備の安定感は変わっておらず、中でも今季最大の脚光を浴びたのは、14日のレッドソックス戦で見せたスーパーキャッチだった。
 3対2で迎えた8回表、デービッド・オルティスが右中間に放った大飛球をイチローはフェンスにぶつかりながら好捕。4回から途中出場していたイチローはこのプレーでピンチを未然に防ぎ、チームの1点差勝利に大きく貢献した。
 「捕れなくても二塁打なので、いきやすい場面ではあった。三塁打が嫌だったけど、オルティスだからね。ケガのリスクは僕にはあまりないからね」
 試合後、久々に地元記者にも長時間取り囲まれたイチローは、日本メディアにはそんな言葉を残している。鮮やかなプレーと、自身とチームの状況を良く理解したコメントは、その価値を再び分かりやすい形で印象づけるに十分だった。

スーパーサブとして求められる人材に

 今季開幕からしばらくのヤンキース戦を見て思ったことは、40歳を迎えた今のイチローは、ほとんど“理想的な控え外野手”ということだ。
 外野の3つのポジションをハイレベルで守れるし、依然として相手投手、守備陣に驚異を与えるスピードを保っている。そんな有用な駒がベンチにいれば、ジョー・ジラルディ監督の戦略の幅も広がる。ジャコビー・エルズベリー、カルロス・ベルトランといった故障の多いベテラン外野手をレギュラーで使っているチームにとって、めったにケガをしないイチローが控えていれば心強い。

 魔術師のようなプレーに慣れ親しんできた日米のファンが、前述通り、長くベンチに座るイチローを見て残念に感じるのは理解できる。ただ、心身の衰えはどんなアスリートにも忍び寄るもの。もともと長打力で貢献するタイプではないだけに、過去3年連続で打率3割以下、出塁率3割1分以下で終わった後で、レギュラー外野手としてはもう厳しいと判断されても仕方ない。
 それでも優れた選手というのは、状況に応じて適応能力を発揮し、生き残る術を見つけていくものである。もはや主力選手ではなくとも、イチローもいわゆる“スーパーサブ”としてヤンキースに必要な人材であり続けることはできる。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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