パッキャオが再戦で見せた技巧派への転身=次戦はメイウェザー!? 5度目のマルケス!?

杉浦大介

完敗を認めたブラッドリー「最高級のファイター」

かつての野性味あふれるファイトとは程遠かったものの、安定したペース配分で、ブラッドリーとの“因縁”のリマッチを制したパッキャオ 【Getty Images】

 現在の力を測るいわゆる“リトマス紙”的な一戦――。そんな趣きのあった4月12日のティモシー・ブラッドリー戦で、6階級制覇王者マニー・パッキャオはまずは及第点と言えるパフォーマンスを見せてくれた。

 WBO世界ウェルター級王座を保持するブラッドリーとのタイトル戦で、35歳になったフィリピンの英雄は3−0(116−112、116−112、118−110)の判定勝ち。ラスベガスのMGMグランドガーデンに集まった1万5601人のファンを熱狂させるような、迫力あるラッシュはなかった。電光石火のスピードもやや低下し、KOを予感させる見せ場も作れなかった。それでも、中盤以降にペースを掴み、ポイント的には文句のない快勝。フロイド・メイウェザーを除けばウェルター級でもトップクラスと目された30歳の黒人王者に、明白な形で初黒星を付けた意味は大きい。

「マニーは世界最高級の偉大なファイター。私はボクシング界が誇る選手に負けたんだ」
 31勝(12KO)1敗となったブラッドリーは、そう語って完敗を認めている。負けていれば商品価値の下落は必至だった瀬戸際の一戦を制し、パッキャオは依然としてエリート級の力を残していることを証明したのである。

最終的に大差も「効いたパンチもあった」

 2012年6月にブラッドリーが疑惑の判定で勝った試合の“因縁のリマッチ”ということで、この一戦はアメリカ国内でも話題を呼んだ。そして、最終的に大差がついたとはいえ、パッキャオもいとも簡単に勝てたわけではない。

「後半戦までには相手に適応し、流れを掴むことが出来た。ブラッドリーは前回よりも強くなっていたね。アゴに受けて効いたパンチもあったよ」
 そんなパッキャオの言葉通り、序盤戦ではブラッドリーの大振りのパンチに手を焼き、4ラウンドには右を浴びて軽いピンチにも陥っている。ただ、その後に徐々に動きが落ちたブラッドリーに対し、この日のパッキャオには以前の野性味はなかった変わりに、ペース配分を図る安定感があった。

以前の怪物性は薄れたものの、適切なアジャスメント

 ブラッドリーが第1ラウンドに右足を痛めたことも大きかったが、“幸運”という見方には筆者は同意できない。黒人王者は序盤からややオーバーペース気味だったし、無理な動きを強いられたゆえに右足の自由を失ったとも捉えられる。普段は常に万全の体調を作って来るブラッドリーだが、パッキャオ相手では2年前の第1戦中にも足を負傷していることを忘れてはならない。
「言い訳はないよ。(ケガについて)言いたいことは何もない」というブラッドリーの潔いコメントは、トリッキーかつスピーディなパッキャオに対処し続けることの難しさを実感した上でのものだったはずだ。

 今のパッキャオは、いわば技巧派投手に転身した元速球王。KO勝利からは2009年以降は遠ざかっているし、ビッグファイトで相手を豪快に沈める姿はもう2度と見れまい。その怪物性の薄れを寂しく思う人も多いだろう。ただ、誰もが経験する身体能力の衰えを感じた後、適切なアジャストメントを成し遂げたことは高く評価されてしかるべきである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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