『勝ち続ける』重責に打ち勝った久光製薬=女子バレー

田中夕子

重責から解放された中田監督の目に涙

Vプレミア女子ファイナルを制した久光製薬(手前)。連覇を目指したチームは『勝ち続ける』重責の中で勝ち抜いての栄冠だった 【坂本清】

 勝利の瞬間、弾けた笑顔が涙に変わる。
 バレーボール女子のVプレミアリーグ・ファイナル。岡山シーガルズにセットカウント3−1で勝利し、久光製薬スプリングスを連覇に導いた中田久美監督は、フーっと息を吐いた後、両手で顔を覆い、選手たちと抱き合った。
「決勝に向けて、たぶん、私が一番不安でした」

 2週間前のセミファイナル。決勝進出を懸け、捨て身で向かって来た岡山シーガルズにストレート負けを喫した。サーブレシーブからの攻撃が通らず、相手に先行される悪循環を招いたことが、思わぬ完敗につながったのだが、すでに決勝進出を決めていたこともあり、観客席から「やる気あんのか!」と、容赦ないヤジも聞こえた。

 どんな時にも勝ち続けなければならない。
「それがチャンピオンチームの宿命なんだ、と実感しました」

 連覇を達成した直後に指揮官の頬を伝ったのは、ただ、勝利を喜ぶものではない。1シーズン背負い続けた重責から、ようやく解放される。安堵の涙だった。

小さな慢心がチームにズレを生んでいた

優勝を決めた後、中田久美監督の目には光るものがあった 【坂本清】

 1月25日以来、負けなしの18連勝。

 圧倒的な強さでレギュラーラウンドを1位で終えたにも関わらず、ウイングスパイカーの新鍋理沙はどこかもどかしそうだった。
「スッキリしないんです。勝っても、モヤモヤするばかり。これでいい、と思うことは1つもない。もっともっと、って。でもそう感じるっていうことは、私も、みんなも、去年や今までよりも上を目指しているからなのかな、と思うんですけど、これでいいのか、すごく不安です」

 天皇杯・皇后杯、Vリーグ、黒鷲旗。国内主要タイトルをすべて制した昨シーズンを経て、中田監督は今シーズンの目標に『勝ち続けること』を掲げた。
「難しいですよ。どのチームだって、久光に負けない、絶対勝ってやると思って向かってくるわけですから。でもそれで負けるようじゃダメ。せっかくスタートラインに立ったんだから、ここから勝ち続けるチームにならないと。目標は日本一じゃない。世界で戦うために、日本では絶対に負けないチームになるための挑戦です」

 シーズン当初はセッターの狩野舞子、ウイングスパイカーの野本梨佳といった試合経験の少ない選手たちを積極的にスタメンで起用したが、なかなかチームとしての形が定まらず、連敗を二度喫した。時には負けることもあって当然で、それでもファイナルラウンドへ進出する上位4チームから外れることはない。そんな小さな慢心がはびこっていたのを、中田監督は見逃さなかった。
「最後に勝てばいい。そんな小さな目標じゃないでしょう。自分たちが目指すバレーをして、レギュラーラウンドも、ファイナルラウンドも勝ち続ける。そういうチームになるんじゃないの?」

 レセプションの返球位置、トスの軌道。スパイカーの助走ルートや、ラリー時の攻撃パターン。昨年、数々のタイトルを制した時には守られていた約束ごとが、気づかぬうちにおろそかになっていた、とウイングスパイカーの石井優希は言う。
「サーブレシーブを返す人によって、タイミングや間が微妙に違っていたから、助走に入るのが遅くなっていたんです。でも攻撃のテンポは速いから、速く飛ばなきゃ、速く打たなきゃと思って無駄に振りかぶって、空中姿勢がすごく窮屈になっていた。連敗して、クミさんにピシっと言われたことで、私だけじゃなく、みんなが小さなズレに気づくきっかけになりました」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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