入江陵介、どん底の1年を乗り越えて復活V=競泳日本選手権第2日

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悩めるエースが会心のレース

男子100メートル背泳ぎで優勝し、インタビューに答える入江陵介(右)と2位の萩野公介=東京辰巳国際水泳場 【共同】

 競泳の日本選手権第2日は11日、東京辰巳国際水泳場で男子100メートル背泳ぎ決勝が行われ、入江陵介(イトマン東進)が52秒57で2年ぶり3度目の優勝を果たした。ここまで2種目を制した萩野公介(東洋大)は53秒08の2位。目標だった6冠への道は、大会2日目で早くも閉ざされた。

 メダル3個獲得の活躍を見せた2年前のロンドン五輪から一転、この1年は入江にとって苦悩の連続だった。昨年の日本選手権では、100メートル背泳ぎで萩野に敗れ国内では約3年ぶりの敗戦。200メートルはかろうじて萩野に競り勝ち7連覇を果たすも「水泳を好きになれてない自分がいる」と心は晴れなかった。さらに、昨夏の世界選手権(スペイン・バルセロナ)では、100メートル、200メートルともにまさかの4位。特に200メートルは、2009年ローマ大会、11年上海大会と連続でメダルを獲得していた得意種目だっただけに、レース後には「今は何も考えられない」と人目もはばからず大粒の涙を流した。

 不調に陥った原因を、入江はこう回顧する。
「五輪翌年というのもあったり、体が痛かったりして、自分自身、目標が定まり切らなかった。練習に自信がなかったりとか、いろんな要因がありました」

 また、昨夏の世界選手権の前後には、五輪メダリストになったことで高まった周囲から寄せられる期待や注目、萩野ら若手の躍進による重圧も口にしていた。そういったさまざまな要素が絡み合うことで歯車が狂い始め、結果が出ないことでさらに追い詰められるという悪循環にはまっていた。

「こっからが逆に楽しみ」

 しかし、この日の入江は違っていた。午前に行われた予選では、53秒00といきなりの好タイム。全体でも、2位の萩野を0秒89上回っての1位通過に「予選からパーフェクトじゃないのに結構(良い記録が)出ちゃってびっくりしている」と驚きを隠さなかった。「決勝は去年苦しかった分、今日は思いっきり爆発させたい」と語ったその表情に昨年までの悲壮感はなく、明るさと自信に満ちていた。
 決勝でも、入江は第一人者の貫禄を見せつけた。スタートから積極的に飛ばしてトップに立つと、後半も隣で泳ぐ萩野の追随を許さず逃げ切った。悩めるエースが復活を果たした瞬間だった。

「本当に自分のレースだけに集中していました。予選が良かったので周りは気にせずに、前半から積極的に、相手がどの位置とか関係なく、自分のペースだけを信じてやってきました」
 レースをそう振り返った入江。直後、貫禄のレースを見せたエースから思わぬ事実が明かされた。
「言おうか悩んでいたんですけど、去年の9月に(椎間板)ヘルニアになってしまって……」

 靴下が履けないなど生活に支障が出るほどの重症。青天のへきれきのように降りかかったアクシデントは、世界選手権後の失意のどん底からはい上がってくる、まさにその過程で起きた。
「昨年、オフを長く取った。離れてみてやっぱり自分には水泳しかないし、自分を表現できる場は水泳だし、水泳をやめて何があるかと聞かれて何もなかった自分もいて。また、(東京五輪の)招致にも携わることができて、どうしてもスポーツの舞台の第一線で活躍したいなという気持ちが強くありました。そう思った矢先、ヘルニアになってしまって」
 当然、練習にも影響し、ターンやウェートトレーニングが禁止され、バサロも本気で泳がないようにと制限されていた。

 しかしケガの功名か、それをきっかけにダウンの数を増やしたり、リハビリを兼ねて補強にも力を入れたことで、体をもう一度見直すことができたという。
 泳ぎ自体にも変化が出てきた。映像分析を積極的に利用。無駄な動きを減らしたり、いろんな人の意見を聞きながらトレーニングを続けた。その結果、スピードの上げ方のコツをつかみ、ピッチを上げても空回りせずに泳げるようになったと手応えを口にする。

 昨年の世界選手権後には「正直、今はリオは考えられない」と16年のリオデジャネイロ五輪が見えない状態だったが、その目は今、「来年の世界選手権、2年後にはリオも迫っているので、もっともっと良い記録を狙っていきたい」と未来に向けられている。
「こっからが逆に楽しみかなと。全然今まで(ヘルニアで)できなかったことができるようになるので」と笑顔を見せた入江。一度どん底を見た24歳のエースは、ひと回りもふた回りもたくましくなって、再び世界への道を歩き始めた。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)
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