可夢偉の苦難のF1復帰を支えるファン=赤井邦彦の「エフワン見聞録」第25回

赤井邦彦/AUTOSPORTweb

ケータハムが可夢偉事務所に送った感謝の手紙

厳しい環境でのF1復帰であることは、可夢偉も重々理解していた。そこに、彼のF1への強い思い入れを感じることができる 【LAT Photographic】

 以前、小林可夢偉のケータハムF1チーム入りに際し、ファンから集めた寄付金をチームに納めたなら、そのことを公に発表した方が小林のF1復帰を願って寄付した人のためにもスッキリとして良いのではないかとフェイスブックに書いた。このことは今でも間違っていないと思うのだが、小林のファンからは余計なお世話だという意見が多く寄せられた。

 その中のいくつかを読んで分かったのだが、(小林のファンに限らず)ファンは妄信的で崇拝する人やモノに関しては何を書いても余計なお世話になってしまうのだろう。だから、外野席からとやかく言うことは今回で止めようと思う。

 外野席からとやかく言うのを止めようと思ったもうひとつの理由は、ケータハムF1チームが小林の事務所に対して、「小林が持ち込んだ1億8506万4822円は小林と同チームがこれからの1年間を通してレースを戦う助けになることをうれしく思う」という3月13日付けの手紙を認(したた)めていたからだ。3月13日と言えば今年の開幕戦オーストラリアGPが始まる週の木曜日。F1はすでにオーストラリア・メルボルンで始動しており、ちょっと泥縄の感じがなきにしもあらずだが、チーム代表兼CEOのサインもある手紙なので、小林は集まった寄付金をチームに提供してF1で戦うという証明がなされたわけだ。

スッキリした手紙の公表

 もちろん、集まった寄付金は、小林が最終的にF1に乗るために使うだろうことに疑いを持っていたわけではない。ただ、小林が乗ることになったチームから寄付金を受け取った事を公にしてもらえば、寄付したファンもスッキリするのではないかと思っただけだ。ケータハムF1チームからの手紙には寄付金の額までが書かれていて大いに驚いたが、これでスッキリしたことも確かだ。

 寄付金は、寄付した人と寄付された人の間で納得が得られているのならそれで良いのかもしれない。その使い道は、寄付された人が決めればいい訳だが、目的を定めて集めた寄付金なら(目的を定めない寄付金はないはずだが)、集まったお金がその目的のために使われたということを寄付された人が何らかの方法で寄付してくれた人に伝えるのは当然だろう。

 今回、ケータハムF1チームが寄付金を受け取り、それをレース活動に使うことを小林の事務所に手紙で伝え、小林の事務所がその手紙を公表したことは、彼らが道理にかなった行為をしたということの証しであり、これで寄付した人はスッキリとして小林を応援できるはずである。実のところ、私もこれでスッキリした。

成功への一歩を踏み出した可夢偉

 小林はマレーシアGPでケータハムのF1マシンを駆って13位で完走した(バーレーンGPでも連続完走。今度は15位だった)。優勝したルイス・ハミルトンのメルセデスには1周遅れにされたが、現在のケータハムF1マシンでは最善の結果だったように思う。

 小林はとにかくF1に戻りたくて努力し、今その夢をかなえた。もちろんレース結果13位というのはふがいない成績だが、F1はクルマの性能に成績が左右される要素が大きいスポーツであり、そのことは小林自身が嫌というほど感じているはず。そしてケータハムは現時点ではとてもトップを狙える性能は備えていない。にもかかわらず小林はそのケータハムでF1に復帰することを選んだところに、彼のF1に対する思い入れの強さを見ることができる。

 人間は強い思い入れを持たなければその世界で成功を収めることは出来ない。その点で小林は成功への一歩を踏み出したとも言える。その小林を支えるのは、寄付金にも表れるファンからの支援である。

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著者プロフィール

赤井邦彦:世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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