手応えと課題をつかんで夏へ センバツを沸かせた6人の球児たち

松倉雄太

1回戦の三重高戦で1試合2本塁打を記録した智弁学園・岡本。続く2回戦での佐野日大・田嶋との対戦では手応えと課題が残った結果となった 【写真は共同】

 延長戦が7試合(大会史上最多タイ)、サヨナラゲームが6試合(大会史上最多を更新)と戦力拮抗となった第86回の選抜高校野球大会。決勝は昭和54年(1979年)以来の近畿勢対決となり、龍谷大平安高が春の選抜38回目の出場で、悲願の初優勝を果たした。
 ここでは、今大会を沸かせた選手たちにスポットを当てながら、今大会を振り返ってみたい。

バッターで一番注目を集めた智弁学園・岡本

 大会4日目第1試合に登場した、智弁学園高の岡本和真(3年)が打者では一番の注目を集めた。1回戦の対戦相手は秋の東海チャンピオンである三重高。試合前、三重高の今井重太朗と中林健吾(ともに3年)のバッテリーは「岡本と勝負したい」という思いを報道陣に話していた。力勝負をするための条件は、岡本の前に走者を出さないことだった。試合が始まり、1回の岡本の第1打席。三重バッテリーは狙い通り、岡本の前に走者を出さないことに成功していた。そして、「ヒットなら構わない」(捕手・中林)という観点で勝負を挑んだ。しかし、フルカウントから今井が投じた内角への球が、真ん中高めに甘く入ると、岡本のバットはそれを見逃さなかった。打球はセンターバックスクリーンを目指して、グングンと伸び、フェンスの上を越えた。バッテリーが、『あそこまで飛ばすか!』という表情を見せるほどの、インパクトある一発。岡本自身が、「甲子園のバックスクリーンに打ちたい」と大会前に話していた通りの本塁打で、流れを智弁学園ペースに引き寄せた。

 この後、6回にこの試合2本目となる本塁打を放つ岡本だが、真骨頂だったのは4回の第2打席での中前打。この回は先頭打者。三重バッテリーは1回と同様に長打を警戒した。だが、先頭だったことで、岡本の意識は違った。

「前の打席で大きいのを打っているので、次の打席はチームバッティングに徹して、バットを短く持って、センター方向を狙いました」

 結局、岡本の安打をきっかけに、打線がつながってこのイニングは3得点。三重の捕手・中林は、「あの3点が大きかった」と敗因を話し、岡本の打撃をたたえた。

岡本と田嶋、注目を集めた投打の主役候補の対戦

 その岡本が出場した前日、大会3日目第3試合に登場したのが、投の主役候補だった佐野日大高の田嶋大樹(3年)。鎮西高を相手に無四球で5安打完封。12個の三振を奪った。「最後はちょっとヒヤッとした」と話すように、9回は連打でピンチを招いたが、それ以外はほぼ完璧な投球内容。140キロを超える直球を披露する場面もあったが、相手打線との力関係もあり、次戦以降へ向けての引き出しを、十分に残したような印象を受けたピッチングであった。

 岡本と田嶋の2人が、大会7日目第3試合で対決。投打の主役候補の対戦に注目が集まった。ゲームは智弁学園高が先攻。1回、2死走者なしという三重戦と同じ状況で岡本が打席に入った。三重高の今井とは同じ左投手と言う共通点がある田嶋。狙いを「岡本の弱点を突く」と内角低めへと定めていた。1球目にその内角低めのスライダーでボールとなる。これで岡本の意識を誘うと、2球目に外角へと投じ、ストライク。そして3球目、再び内角低めを突いて、左飛に打ち取った。
 最初の勝負を制した田嶋のピッチングに乗せられ、佐野日大高が先制。途中に2度追いつかれるが、ゲームをひっくり返されることのない状態で、田嶋は岡本に対した。ただし「岡本のスイングが怖かった」と話すように、勝負を重ねる度に、岡本の打撃が目立つようになる。8回の4度目の対戦では、遊撃手のグラブをかすめながらもセンターに抜けていく強い打球を打たれた。

 勝負のラストは延長10回の第5打席。神経を使い、疲労が見え始めていた田嶋が投じた内角低めのスライダーが、岡本の足に当たり、死球となった。結局、この10回で智弁学園高は無得点に終わり、その裏に佐野日大がサヨナラ勝ち。チームとしての勝負は、佐野日大が制した。岡本と田嶋、2人は共に「力を出せた」と同じコメントを発し、手応え、課題を実感した一戦となった。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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