井上尚が最短記録、長谷川は3階級へ挑戦=4月のボクシング興行見どころ

船橋真二郎

王者よりも上回るスピードとテクニック

日本最短記録となる6戦目での世界王者を目指す井上尚弥。4月6日に4連続防衛中のWBC世界ライトフライ級王者アドリアン・エルナンデスに挑戦する 【t.SAKUMA】

「プロになるからには絶対に世界王者になる。この先は一歩一歩、目の前の試合を勝つだけだが、まずは井岡(一翔)さんの記録を塗り替えたい」
 2012年7月10日、異例の公開プロテストが行われた後楽園ホールのリング上で、うわさの怪物ルーキー・井上尚弥(大橋)は堂々と宣言した。現役の日本王者を相手に公開された実技試験のスパーリングでは、その技量を存分に披露。集まった観客やメディアの前で噂に違わぬ怪物ぶりを見せた。あれから1年9カ月。まだプロデビュー前の19歳の言葉が現実になろうとしている。

 4月の最注目カードは、6日(日)に東京・大田区総合体育館で行われるWBC世界ライトフライ級タイトルマッチになるのだろう。井上がプロ6戦目で世界タイトルに挑む一戦は、井岡一翔(井岡)の持つ日本ボクシング史上、最短世界奪取記録7戦目への挑戦にもなる。

「記録にこだわる必要はない」「じっくり育てるべき」
 良心的な声は大器への期待の裏返しだったが、国内最短タイ記録の4戦目で日本タイトル獲得、同タイ記録の5戦目でOPBF東洋太平洋タイトル獲得と、次々とハードルをクリアする過程で見せつけた実力でトーンダウンさせた感がある。実際、4連続防衛中の王者、アドリアン・エルナンデス(メキシコ)の戦力と比較しても、井上のほうがスピードとテクニックではっきり上回ると言わざるを得ないから恐れ入る。

底辺拡大を目指すU−15の象徴的存在

 井上は08年8月、後楽園ホールで開催された『第1回U−15ボクシング全国大会』中学生の部の優秀選手のひとり。翌年以降、高校1年からアマチュアボクシング界に旋風を巻き起こした。インターハイ、国体(少年の部)、選抜と高校の主要全国大会を初出場で制すと、アジアユース、世界ユースにも出場。社会人、大学生に混ざって高校2年で初出場した全日本選手権は準優勝だったが、翌年には見事に優勝した。高校3年の11年10月には世界選手権でベスト16。翌年4月にはアジア選手権で準優勝。ともにロンドン五輪出場権が懸けられた大会で、あと1勝のところで涙をのんだ。五輪出場はならなかったものの、10代でこれほどの実績を残した選手はかつていない。その要因を1回しか出場していないU−15大会だけに求めるのは無理があるが、15歳以下の育成と底辺拡大を目的に継続して毎年開催され、プロ、アマ双方に優秀な選手を輩出し始めている同大会の象徴的存在とは言えるだろう。

 それでも、エルナンデスの分厚いキャリアはやはり怖い。戦績は6倍以上の32戦29勝(18KO)2敗1分。現在のベルトは一度、手離してから奪回したもので、世界戦だけでも8戦と井上を上回っている。
「井上は大橋ジムだけでなく、日本ボクシング界の宝」
 デビュー戦後の会見で、日本プロボクシング協会長でもある大橋秀行会長は言った。試合の4日後に21歳の誕生日を迎える井上にとって、最短奪取記録はゴールではない。自身の輝ける未来への第一歩であるのはもちろんのこと、若年層の強化に本腰を入れ始めたボクシング界にとっても、新時代の幕開けになると期待したい。

八重樫、ロマゴン戦へ負けが許されない一戦

4月6日に3度目の防衛戦を迎える八重樫。次戦にローマン・ゴンザレス戦を控えて、取りこぼしの許されない一戦となった 【スポーツナビ】

“RING OF DIAMONDS”と銘打たれた6日の大田区総合体育館は、20周年を迎えた大橋ジムのオールスター興行といった趣。WBC世界フライ級王者の八重樫東の3度目の防衛戦は、クリアすれば次戦で軽量級最強の呼び声高いローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との大一番が実現する点でも注目だ。そのロマゴンも前座で顔見せし、対決ムードを盛り上げるが、目の前のオディロン・サレタ(メキシコ)に取りこぼしは許されない。

 その他にも4度目の世界挑戦を目指す細野悟がタイトル初挑戦となる無敗の緒方勇希(角海老宝石)と対する日本フェザー級王座決定戦、井上とは第1回U−15大会の同期で高校4冠の松本亮と3度の世界挑戦実績を持つ久高寛之(渥美)との一戦、さらに井上の実弟でU−15大会には第1回から3年連続出場した18歳の井上拓真が、プロ2戦目で世界上位ランカーに挑むなど、興味深いカードが目白押しだ。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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