“禅マスター”フィル・ジャクソンの帰還 ニックスが再建を託す百戦錬磨の救世主

杉浦大介

名門チームの球団社長に就任

ニューヨーク・ニックスの球団社長に就任したフィル・ジャクソン(中央)。華々しい実績を持つジャクソンの入閣をファンも歓迎した 【Getty Images】

 3月19日、ニューヨークで行われたニックス対ペイサーズ戦でのこと。第1クオーター途中、フィル・ジャクソンがマディソン・スクエア・ガーデン(MSG)で紹介された直後ほど、ニックスファンの顔が輝いた瞬間はなかった。

「アリーナだけでなく、街全体にエナジーが満ちあふれている。ファン、ニックスのサポーターの想いが建物に足を踏み入れたときから感じられたよ。これを保ち、何かを作り上げていきたいね」

 その試合後、カーメロ・アンソニーが残した言葉も大げさには思えなかった。

 ペイサーズ戦の前日、“禅マスター”の愛称で知られるジャクソンの球団社長就任が正式決定。ヘッドコーチとして優勝回数はリーグ最多の11回、通算勝率は70%を超えるなど華々しい実績を持つ68歳の入閣に、勝利に飢えたニューヨーカーは敏感に反応した。

 1973年以来、優勝から遠ざかっている名門チームに、“救世主”が降臨する。今季もプレーオフ逸が濃厚なチームを建て直すには、マイケル・ジョーダン、コービー・ブライアントらの指揮官として長くリーグに君臨し、現役時代にはニックスでもプレーした経験を持つジャクソンは適切な人材に思える。時を同じくして、3月21日までニックスが今季最長の8連勝を続けたこともあって、ニューヨークは久々にポジティブなバイブに包まれたのだった。

オーナーは現場に介入しないことを約束

 何より重要なのは、ジャクソン入閣に際し、ニックス・オーナーのジェームス・ドーランがチーム作りを全面的に任せると約束したことである。

 フォーブス社の球団資産価値ランキング(2014年1月発表)で1位にランクされるほどの金満チームながら、過去15年間でのニックスのファイナル進出はゼロ。その背後には、ドーランの強過ぎる影響力があるというのは定説だった。

 アイザイア・トーマス(ゼネラルマネージャー&コーチ)、ラリー・ブラウン(コーチ)、マイク・ダントーニ(コーチ)といったビッグネームを再建の切り札として登用するも、ことごとく失敗。金を出すだけでなく、人事にも口を挟む。短絡視野で大金を浪費し、07年には当時のデビッド・スターンコミッショナーから「知性的に運営されているとは言えないチーム」と批判されたこともあった。

 しかしそんなドーランが、18日のジャクソン入閣発表会見では、こんなコメントを残して関係者を驚かせた。

「自分はバスケットボールのエキスパートにはほど遠い。私はファンであり、仕事は会社自体を運営すること。チーム作りに関しては専門ではないよ。これまでチームの決断に関わってきたことは、自分の希望ではなかったが、会社のチェアマンとしてそうする必要性を感じたんだ」

 例えは悪いが、アルコールや薬物などに中毒を抱えている人間は、まずは自分に問題があると認めることが更正への第一歩だという。ニックスにとっても、厄介なオーナーが「自分は専門家ではない」と認めたことは、改善のスタートと成り得るのではないだろうか。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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