“禅マスター”フィル・ジャクソンの帰還 ニックスが再建を託す百戦錬磨の救世主
名門チームの球団社長に就任
ニューヨーク・ニックスの球団社長に就任したフィル・ジャクソン(中央)。華々しい実績を持つジャクソンの入閣をファンも歓迎した 【Getty Images】
「アリーナだけでなく、街全体にエナジーが満ちあふれている。ファン、ニックスのサポーターの想いが建物に足を踏み入れたときから感じられたよ。これを保ち、何かを作り上げていきたいね」
その試合後、カーメロ・アンソニーが残した言葉も大げさには思えなかった。
ペイサーズ戦の前日、“禅マスター”の愛称で知られるジャクソンの球団社長就任が正式決定。ヘッドコーチとして優勝回数はリーグ最多の11回、通算勝率は70%を超えるなど華々しい実績を持つ68歳の入閣に、勝利に飢えたニューヨーカーは敏感に反応した。
1973年以来、優勝から遠ざかっている名門チームに、“救世主”が降臨する。今季もプレーオフ逸が濃厚なチームを建て直すには、マイケル・ジョーダン、コービー・ブライアントらの指揮官として長くリーグに君臨し、現役時代にはニックスでもプレーした経験を持つジャクソンは適切な人材に思える。時を同じくして、3月21日までニックスが今季最長の8連勝を続けたこともあって、ニューヨークは久々にポジティブなバイブに包まれたのだった。
オーナーは現場に介入しないことを約束
フォーブス社の球団資産価値ランキング(2014年1月発表)で1位にランクされるほどの金満チームながら、過去15年間でのニックスのファイナル進出はゼロ。その背後には、ドーランの強過ぎる影響力があるというのは定説だった。
アイザイア・トーマス(ゼネラルマネージャー&コーチ)、ラリー・ブラウン(コーチ)、マイク・ダントーニ(コーチ)といったビッグネームを再建の切り札として登用するも、ことごとく失敗。金を出すだけでなく、人事にも口を挟む。短絡視野で大金を浪費し、07年には当時のデビッド・スターンコミッショナーから「知性的に運営されているとは言えないチーム」と批判されたこともあった。
しかしそんなドーランが、18日のジャクソン入閣発表会見では、こんなコメントを残して関係者を驚かせた。
「自分はバスケットボールのエキスパートにはほど遠い。私はファンであり、仕事は会社自体を運営すること。チーム作りに関しては専門ではないよ。これまでチームの決断に関わってきたことは、自分の希望ではなかったが、会社のチェアマンとしてそうする必要性を感じたんだ」
例えは悪いが、アルコールや薬物などに中毒を抱えている人間は、まずは自分に問題があると認めることが更正への第一歩だという。ニックスにとっても、厄介なオーナーが「自分は専門家ではない」と認めたことは、改善のスタートと成り得るのではないだろうか。