久光製薬の牙城を崩すチームは現れるか!? キーマンとなる岡山・栗原と東レ・迫田
レギュラーラウンド終了、久光が頭1つ抜け出る
Vプレミアリーグ女子のレギュラーラウンドが終了。頭1つ抜け出している久光製薬の牙城を崩すチームは現れるか? 【写真:アフロスポーツ】
レギュラーラウンドで強さを見せたのが、昨年の覇者、久光製薬スプリングスだ。
昨シーズンは天皇杯・皇后杯、リーグ、黒鷲旗と三冠タイトルを総なめにし、昨年末の天皇杯・皇后杯も制し、連覇を達成。中田久美監督が「今季の目標はアジア1位」と公言するように、目標、意識、プレーの質で他チームを圧倒、1月25日のJT戦以後、負け知らずの18連勝。誰が出ても、いつでも強い久光製薬をこれ以上ない形で見せつけた。
レギュラーラウンドだけを見れば、久光製薬が頭1つ抜けている感は否めない。とはいえ、3日間で4チームが対する短期決戦のセミファイナルは、多くの指揮官が「レギュラーラウンドとはまったく別の戦い」と口をそろえるように、一度波に乗ってしまえば、最後まで一気に突っ走る可能性は大いにある。
セミファイナル進出を果たしたのは、昨年末の天皇杯・皇后杯で準優勝の岡山シーガルズと、昨年のVプレミアリーグで準優勝の東レアローズ。そして06年のプレミアリーグ昇格後、初めてのセミファイナル進出となるトヨタ車体クインシーズ。
圧倒的な力で勝ち進んできた、女王・久光製薬にストップをかけるチームは現れるのだろうか。
栗原恵、頼れるエース復活の兆し
昨季、岡山入りした栗原恵。けがから回復し、エースの復帰した姿はセミファイナル以降で見られるか? 【写真は共同】
岡山シーガルズの栗原恵と、東レアローズの迫田さおりだ。
レギュラーラウンドを3位で終えた岡山シーガルズの河本昭義監督はこう言う。
「いやぁ、久光さんは強いですよ。そういう相手に、普通にやったらダメ。いつも通りとは真反対の、まったく別の戦い方をするぐらいの意識がないと、勝てないでしょうね」
セッターの宮下遥を中心にした、独自のコンビバレーを展開する岡山は、セットごとに選手やポジションを入れ替えるなど、対戦相手からすれば常に変化を感じさせるチームであるのは間違いない。
だが、レギュラーラウンドの久光製薬戦に限って言えば、4戦全敗。河本監督が言う「その都度試してきた変化」も女王の牙城を崩すまでには至っていない。
しかし、ファイナルラウンドを見据えた新たな好材料が、ケガから復帰した栗原の存在だ。試合を重ねるごとに感覚を取り戻し、調子を上げている。さらに高さを生かした強打だけでなく、「岡山に加入してから、ずっと課題にしてきた」というブロックアウトや、フェイント、プッシュを要所要所で取り入れ、新たな一面を発揮している。
変化の兆しは、プレーだけでない。
「コートに立つ時間が増えることで、セッターや、周りの選手とあうんの呼吸でプレーできている実感はあります。でも、チームが流れに乗っていて、いい時ならばそれは比較的簡単にできることですが、苦しい時にも踏ん張るためには、経験のある選手が頑張らなきゃいけない。自分は、そういう立場にいると思っているので、大事な時に軸になりたい、と思って、今はコートに立っています」
前半戦では取り入れていなかったラリー中のバックアタックも、宮下が「メグさんが入って、積極的に使えるようになった」と言うように、試合を重ねるたびに本数も増え、新しい攻撃パターンとして構築されつつある。
レギュラーラウンドとはまったく異なるプレッシャー、独特の雰囲気が漂うセミファイナルで、そして最後の決戦でチームを勝利に導くことができれば、その時こそ、頼れるエースが復活の時になるはずだ。
迫田さおり、エースの自覚を身につけ決戦へ
木村沙織が去った東レの中で、新たなエースとしての自覚が生まれている迫田さおり。チームを引っ張り久光の牙城を崩せるか? 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
レギュラーラウンドでの18勝中、実に8試合はフルセットでの勝利。キャプテンの中道瞳が「フルセットで勝ち切る力がついたのはプラスだけど、シーズンを通して波が激しすぎた」と言うように、接戦を制する強さを持ち合わせる反面、楽に勝てたかもしれない試合をもつれさせてしまう脆さもあった。
それでもレギュラーラウンドを2位で終え、セミファイナル進出を決めた後、最終節で対戦した岡山戦はそれまでセッター対角に入っていた迫田をレフトに入れ、セッター対角に堀川真理を入れる新たな布陣で臨んだ。
セミファイナル以降の対戦を見据え、新しいパターンがどれだけ効果的かを試す場でもあったのだが、結果は伴わず、ストレートで敗れ、リーグでは2011年12月以来、2年ぶりとなる白星を岡山に献上した。
試合後、厳しい表情で迫田は言った。
「チームが完成していなければならない時期に、こういうゲームをしてしまったことは、すごく大きな反省が残りました。今の時点で新しい布陣を試すのではなく、もっと早く試すべきだったと思うし、このまま変わることができなければ、セミファイナルも全敗する。そのぐらいの危機感があります」
昨年、木村沙織(ガラタサライ/トルコ)が抜けたチームの中で、迫田は「エースとしてサオリさんはすごかった。自分ももっと頼られるようにならなきゃダメだ」ともがいていた。勝っても負けても、最初に出るのは反省ばかり。周囲の選手が「リオさんが決めてくれたから勝った」と言っても、周囲を讃え、自己採点ばかりがいつも厳しかった。
そんな迫田が、堂々と「このままじゃ全敗する」「もっと早く新しい布陣を試すべきだった」と自らの主張を強く口にする。これまでは見られなかった、大きな変化だった。
「あまり自分の意見ばかり言うのは、ただのワガママなんじゃないかな、と躊躇(ちゅうちょ)することもあります。でも、今までの東レと、今の東レは違う。何か絶対的なものをつくるためには、試合のたびに気づいたこと、言うべきことはためらわずに口にしなきゃ、と思うようになりました」
昨シーズンは大事な試合で、ことごとく久光製薬の壁に跳ね返された。その経験も「迫田を変え、エースの自覚をさらに強くさせた大きな要因」と福田康弘監督は言う。
同じ轍(てつ)を踏むことがないように。逞しさを増したエースが、再びその壁に立ち向かう。
何が起こるか分からないのが、短期決戦の面白さでもある。
絶対的なエースはいないが、1本目のパスを高く上げ、間をつくり、全員が同時に攻撃参加する戦術を基軸とするトヨタ車体も、混戦の四強争いに勝ち抜いてきた勢いがある。当然、台風の目だけで終わる気は、さらさらない。
女王の牙城を崩すチームは現れるのか。
最終決戦に進出する2チームを決めるセミファイナルは、28日に開幕する。
<了>
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