久光製薬の牙城を崩すチームは現れるか!? キーマンとなる岡山・栗原と東レ・迫田

田中夕子

レギュラーラウンド終了、久光が頭1つ抜け出る

Vプレミアリーグ女子のレギュラーラウンドが終了。頭1つ抜け出している久光製薬の牙城を崩すチームは現れるか? 【写真:アフロスポーツ】

 バレーボールのVプレミアリーグ女子大会のレギュラーラウンドが22日に終了した。 11月の開幕以後、8チーム総当たりのリーグ戦を4巡し、全28試合を戦い、上位4チームが優勝を懸けたセミファイナルへの進出を決めた。

 レギュラーラウンドで強さを見せたのが、昨年の覇者、久光製薬スプリングスだ。
 昨シーズンは天皇杯・皇后杯、リーグ、黒鷲旗と三冠タイトルを総なめにし、昨年末の天皇杯・皇后杯も制し、連覇を達成。中田久美監督が「今季の目標はアジア1位」と公言するように、目標、意識、プレーの質で他チームを圧倒、1月25日のJT戦以後、負け知らずの18連勝。誰が出ても、いつでも強い久光製薬をこれ以上ない形で見せつけた。

 レギュラーラウンドだけを見れば、久光製薬が頭1つ抜けている感は否めない。とはいえ、3日間で4チームが対する短期決戦のセミファイナルは、多くの指揮官が「レギュラーラウンドとはまったく別の戦い」と口をそろえるように、一度波に乗ってしまえば、最後まで一気に突っ走る可能性は大いにある。

 セミファイナル進出を果たしたのは、昨年末の天皇杯・皇后杯で準優勝の岡山シーガルズと、昨年のVプレミアリーグで準優勝の東レアローズ。そして06年のプレミアリーグ昇格後、初めてのセミファイナル進出となるトヨタ車体クインシーズ。
 圧倒的な力で勝ち進んできた、女王・久光製薬にストップをかけるチームは現れるのだろうか。

栗原恵、頼れるエース復活の兆し

昨季、岡山入りした栗原恵。けがから回復し、エースの復帰した姿はセミファイナル以降で見られるか? 【写真は共同】

 勝敗のカギを握る、2人のエースがいる。
 岡山シーガルズの栗原恵と、東レアローズの迫田さおりだ。

 レギュラーラウンドを3位で終えた岡山シーガルズの河本昭義監督はこう言う。
「いやぁ、久光さんは強いですよ。そういう相手に、普通にやったらダメ。いつも通りとは真反対の、まったく別の戦い方をするぐらいの意識がないと、勝てないでしょうね」

 セッターの宮下遥を中心にした、独自のコンビバレーを展開する岡山は、セットごとに選手やポジションを入れ替えるなど、対戦相手からすれば常に変化を感じさせるチームであるのは間違いない。
 だが、レギュラーラウンドの久光製薬戦に限って言えば、4戦全敗。河本監督が言う「その都度試してきた変化」も女王の牙城を崩すまでには至っていない。

 しかし、ファイナルラウンドを見据えた新たな好材料が、ケガから復帰した栗原の存在だ。試合を重ねるごとに感覚を取り戻し、調子を上げている。さらに高さを生かした強打だけでなく、「岡山に加入してから、ずっと課題にしてきた」というブロックアウトや、フェイント、プッシュを要所要所で取り入れ、新たな一面を発揮している。

 変化の兆しは、プレーだけでない。
「コートに立つ時間が増えることで、セッターや、周りの選手とあうんの呼吸でプレーできている実感はあります。でも、チームが流れに乗っていて、いい時ならばそれは比較的簡単にできることですが、苦しい時にも踏ん張るためには、経験のある選手が頑張らなきゃいけない。自分は、そういう立場にいると思っているので、大事な時に軸になりたい、と思って、今はコートに立っています」

 前半戦では取り入れていなかったラリー中のバックアタックも、宮下が「メグさんが入って、積極的に使えるようになった」と言うように、試合を重ねるたびに本数も増え、新しい攻撃パターンとして構築されつつある。

 レギュラーラウンドとはまったく異なるプレッシャー、独特の雰囲気が漂うセミファイナルで、そして最後の決戦でチームを勝利に導くことができれば、その時こそ、頼れるエースが復活の時になるはずだ。

迫田さおり、エースの自覚を身につけ決戦へ

木村沙織が去った東レの中で、新たなエースとしての自覚が生まれている迫田さおり。チームを引っ張り久光の牙城を崩せるか? 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 かつては07−08シーズンから09−10シーズンまで女子チームとして初めての3連覇を達成するなど、華々しい成績を残してきた東レアローズだが、荒木絵里香、濱口華菜里といった当時を知る面々が抜けた今季、開幕から2連敗を喫するなど、これまでとは異なる、苦しいシーズンを強いられた。

 レギュラーラウンドでの18勝中、実に8試合はフルセットでの勝利。キャプテンの中道瞳が「フルセットで勝ち切る力がついたのはプラスだけど、シーズンを通して波が激しすぎた」と言うように、接戦を制する強さを持ち合わせる反面、楽に勝てたかもしれない試合をもつれさせてしまう脆さもあった。

 それでもレギュラーラウンドを2位で終え、セミファイナル進出を決めた後、最終節で対戦した岡山戦はそれまでセッター対角に入っていた迫田をレフトに入れ、セッター対角に堀川真理を入れる新たな布陣で臨んだ。
 セミファイナル以降の対戦を見据え、新しいパターンがどれだけ効果的かを試す場でもあったのだが、結果は伴わず、ストレートで敗れ、リーグでは2011年12月以来、2年ぶりとなる白星を岡山に献上した。

 試合後、厳しい表情で迫田は言った。
「チームが完成していなければならない時期に、こういうゲームをしてしまったことは、すごく大きな反省が残りました。今の時点で新しい布陣を試すのではなく、もっと早く試すべきだったと思うし、このまま変わることができなければ、セミファイナルも全敗する。そのぐらいの危機感があります」

 昨年、木村沙織(ガラタサライ/トルコ)が抜けたチームの中で、迫田は「エースとしてサオリさんはすごかった。自分ももっと頼られるようにならなきゃダメだ」ともがいていた。勝っても負けても、最初に出るのは反省ばかり。周囲の選手が「リオさんが決めてくれたから勝った」と言っても、周囲を讃え、自己採点ばかりがいつも厳しかった。

 そんな迫田が、堂々と「このままじゃ全敗する」「もっと早く新しい布陣を試すべきだった」と自らの主張を強く口にする。これまでは見られなかった、大きな変化だった。
「あまり自分の意見ばかり言うのは、ただのワガママなんじゃないかな、と躊躇(ちゅうちょ)することもあります。でも、今までの東レと、今の東レは違う。何か絶対的なものをつくるためには、試合のたびに気づいたこと、言うべきことはためらわずに口にしなきゃ、と思うようになりました」

 昨シーズンは大事な試合で、ことごとく久光製薬の壁に跳ね返された。その経験も「迫田を変え、エースの自覚をさらに強くさせた大きな要因」と福田康弘監督は言う。
 同じ轍(てつ)を踏むことがないように。逞しさを増したエースが、再びその壁に立ち向かう。

 何が起こるか分からないのが、短期決戦の面白さでもある。
 絶対的なエースはいないが、1本目のパスを高く上げ、間をつくり、全員が同時に攻撃参加する戦術を基軸とするトヨタ車体も、混戦の四強争いに勝ち抜いてきた勢いがある。当然、台風の目だけで終わる気は、さらさらない。
 女王の牙城を崩すチームは現れるのか。
 最終決戦に進出する2チームを決めるセミファイナルは、28日に開幕する。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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