イタリア人監督の下で覚醒目指すFC東京 『規制と自由』を取り入れ、中位脱却へ

後藤勝

日本人とイタリア人が類似する緻密さ

練習では動きを止め、ポジションと動き方を緻密に確認するところは、ザッケローニ日本代表監督と共通する部分だ 【後藤勝】

「(2011年3月11日の東日本大震災)当時はチェゼーナの指揮を執っていたので(長友を取材する)日本人記者の方たちから震災の情報を得て状況を把握していました。いち国家のレベルでの苦しい経験に、現在も被災者の方が苦労されていることは非常に残念だと思います」
 心痛は本物だろう。過去15年間に30回以上来日しているフィッカデンティ監督に日本とは何かを説く必要はない。1月18日の新体制発表会では、こう言ったものだ。
「日本のことをあまりよく知らない外国人は、日本食と言えば寿司と考えますが、わたしは焼肉、ラーメン、日本のみなさんがよく食べるものすべて、まったく問題ありません」
 フィッカデンティ監督を招聘(しょうへい)した立石敬之強化部長は言う。
「(日本代表監督のアルベルト・)ザッケローニ監督もそうですけれども、イタリア人は日本人にすごくよく似ているところがあると思っています。彼もそのひとりで、ものすごく緻密で細かく、ディテールを大事にする人間です」

 ザッケローニとフィッカデンティ、少ないサンプルでイタリア人監督とは何かを書く愚をおかしたくなるような共通点は確かにある。
 動きを止め、あるいはゆっくりと歩きながら、ポジションと動き方の確認をするトレーニング方法。片方のサイドに追い込むディフェンスのやり方。
 選手たちも立石強化部長同様、細かさを口にする。なにしろ対戦相手によってビルドアップの方法からマークの付き方に到るまでやり方が変わる。右ウイングのFW渡邉千真は、ある試合ではセンターバックをマークするが、ある試合ではサイドバックをマークする。もともと絶妙なポジショニングで仲間が入るスペースを作ることが得意な渡邉は戦術的な気の利いたFWと言え、マッシモのサッカーにぴったりだ。

 練習や試合を観ていると、状況に応じ、東京の選手たちがよく考えながらサッカーをしていることが分かる。その細かさが身体感覚に落とし込まれれば、より知的な戦い方で勝てるようになるだろう。

決まりごとと自由さが噛み合えば新しいチームが生まれる

 もちろん変わらない基本のコンセプトはある。4−1−2−3というフォーメーションはそれこそチェゼーナの時と同様であるし、片方のサイドバックが上がればもう片方が残る約束事は維持されている。あまり流動的になることもフィッカデンティ監督は好まない。
 それでいて動きをある程度まで限定した後は、選手個々に自由を与えている。

 FW河野広貴は言う。
「攻撃に関しては動き方や廻し方だけ守っていれば、ボールを持った時には何も言われない」
 昨シーズンの東京はパサーが使われドリブラーの出番が少なかったが、武藤、河野、そしてMF石川直宏と、推進力を期待されて出場する場面が増えてきそうだ。
「より向上させていき、戦術、フィジカル、様々な側面から準備していく必要があるものの、いまのFC東京の選手たちにも長友佑都に似たような特徴はあります」(フィッカデンティ監督)

 攻撃に手数をかけなくともよいのがマッシモ流。忍耐強さをハードワークに用いるだけでなく、20、30メートルのダッシュ力や狭い範囲でのボール扱いの技術をカウンターに生かし、攻撃面でも日本人の特徴を出せるはずだ。

「整った状態では仕掛けられないから、カウンターがうまくいって、サイドチェンジがバーッと来たら、そこからは仕掛けろと言うよ、監督は」(河野)

 規制と自由、知性と野性。相反する要素が噛み合い、使い分けられるようになった時、新しいFC東京が誕生する。

<了>

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著者プロフィール

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン「青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン」 (http://www.targma.jp/wasshoi/)を随時更新。「サッカー入門ちゃんねる」(https://m.youtube.com/channel/UCU_vvltc9pqyllPDXtITL6w)を開設 。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊 http://www.kanzen.jp/book/b181705.html)がある。【Twitter】@TokyoWasshoi

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