「戦術」で変化した日本ラグビー 13−14シーズン総括

斉藤健仁

攻撃面でもリードした2冠のパナソニック

日本選手権決勝で東芝を破り、2冠を達成したパナソニック 【築田純】

 3月9日、現在の国立競技場では最後となるラグビーの日本選手権が行われた。トップリーグ王者パナソニックが、1年間で4度目の顔合わせとなった東芝を30対21で退け、チーム初の2冠を達成した。実にトップリーグのファーストステージ第4節から15連勝で今シーズンを駆け抜けた。

 2冠の要因は――。もちろん、伝統の守備を再強化したこともあるが、攻撃でも他チームの追随を許さなかった。昨年の11月上旬、宮崎合宿を敢行。オーストラリア代表のロビー・ディーンズ前監督と、かつてチームに在籍した現ハイランダーズBKコーチのトニー・ブラウンの2人が戦術に磨きをかけた(SH田中史朗が所属するハイランダーズはパナソニックと同様の戦術)。

 前提として、現在の潮流は「リサイクルベース」だ。日本代表やパナソニックでは「リロード」とも呼ぶ。ボールを継続する中で、相手の組織ディフェンスに対し、ミスマッチやほころびを作ってトライを狙う。また、なるべくラックにかける人数は少なくし、素早くボールを出せれば攻撃側がより優位に立てる。

最先端の戦術に田中とバーンズの判断が加わる

ボールを持って突破するパナソニック・田中(中央)。正確な判断で攻撃をリードした 【築田純】

 日本代表やサントリーはSHとSOの横にFWの選手を配置し、基本的に順目(同じ方向)、順目に選手が移動し相手を崩す「アタック・シェイプ(シェイプ)」を導入。神戸製鋼、NEC、ヤマハ発動機などは4人ずつで3つのユニットでボールを振り子のように動かし、基本的には外で数的有利を作る「3ポッド」を用いている。

 パナソニックは唯一、2011年ワールドカップ優勝のニュージーランド代表が採用していた「2ポッド」の変形版である「4ポッド」という最先端の戦術を用いていた。中盤はFWの前5人を中心にSHから2つの起点を作り、両サイドにはバックローとBKが分かれて立つ。4つユニットがある中で、FWを前に出すことも、デコイ(おとり)にしてBKラインに回すこともでき、しかもSH田中と司令塔ベリック・バーンズが判断し、自由に動いて相手ディフェンスを攻略する。

 例えば、中盤ではSHから順目にFWが立ち、ダブルラインも形成しつつ、逆目にもアタックラインができている。日本選手権決勝の前半8分、左タッチライン際から中盤でFWが2回ボールをリサイクルし、ナンバー8がおとりとなり、一気に外に展開、トライ寸前まで迫った。30分も、その前のプレーで逆目を攻めていたことが功を奏し、FWが順目に縦を突いた後、相手のディフェンスがそろっていない順目にSOバーンズが走り込んでラストパス。トライを挙げたWTB山田章仁の強さと巧みさも光った。

キックの戦略が機能した東芝、サントリーは無冠

 東芝も、相手FWへ重圧をかけてリサイクルを遅らせ、外へのパスを遮断するために中盤の選手が詰めるディフェンスで善戦。だが反則13(パナソニックは3)と規律を守れなかった。それでも、東芝はハーフ団のキックで敵陣に入る戦略が機能し決勝に進出。敵陣奥深く入れば、持ち前の力強いプレーが生きた。

 サントリーは、4シーズンぶりに無冠に終わった。代名詞のシェイプを貫いた。突如、逆サイドを突いたり、近場を攻めたりするなどの工夫も見えた。だが、2年前には、現在、日本代表を率いるエディー・ジョーンズが去り、昨シーズン、ヘッドコーチを務めた沢木敬介氏もU20日本代表の指揮官に就任してしまった影響は隠せなかった。

1/2ページ

著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント