勝負できる板を作る“職人”ワックスマン=パラリン距離陣を支える現職・高校教師

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1レースで15〜30秒、大きい時は分単位で影響

パラリンピックのクロスカントリー陣が活躍には、その板の手入れをする「ワックスマン」の技術も関わってくる 【写真:アフロ】

 選手のパフォーマンスを左右するのは、自身のコンディションや天候の条件などのほかに、「道具」がある。野球で言えばバット。巨人やヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏、現ヤンキースのイチローらのバットは「職人」と呼ばれる名匠が仕上げてきた。
 それではスキー競技ではどうか? 最も勝敗を左右するものはやはり「板」だろう。一括りに板というが、いわゆる板をつくればおしまいではない。そこには板の滑りを雪質に合わせて調整する“ワックスマン”という「職人」が存在する。

 ワックスの出来、不出来でどのくらいの差が生じるのだろうか。起伏の激しいコースを滑るクロスカントリースキーでは1レースで少なくとも15〜30秒、大きいときは分単位で選手のパフォーマンスに影響を与える。
 7日に開幕したソチパラリンピックのスキー競技では、2月23日まで行われていたソチ五輪と同様に、雪質に関する言及が選手や関係者から連日のように聞かれる。天然雪と人工雪が混ざったその雪は、気温が低ければアイスバーン状になって固くなり、暖かくなると雪が溶けて砂のようなザラザラな質となる。そのような条件の中、「勝敗を分ける要素」(荒井秀樹クロスカントリーチーム監督)のひとつとなるのがワックスの選択。
 今回のパラリンピック・クロスカントリーで、強豪のロシアやウクライナといった国と争うカギを握るワックス担当のチーフを務めているのが竹原健介さんだ。

「長野五輪に携わりたかった」のがきっかけ

 竹原さんはもともとクロスカントリー選手で、現在は北海道・旭川工業高で教師を務めている。以前には同じ道内の下川商業高に勤務しており、その時にはソチ五輪スキージャンプ男子日本代表の伊東大貴(雪印メグミルク)の教科担任、同女子の伊藤有希(土屋ホーム)の担任だったほか、ノルディック複合の加藤大平(サッポロノルディック)がジュニア時代には日本代表ジュニアのクロスカントリーコーチでもあった。

 ワックスマンになるきっかけは、1998年の長野五輪。選手として現役引退をしたばかりだった竹原さんは、「何らかの手段で携わりたかった」という思いがあった。元選手の竹原さんにとって、ワックス整備は手慣れたもの。何十種類もあるワックスから、天候、コース、競技実施時間帯の雪質の変化などを考慮に入れて、ワックスの厚さ、量、長さを「選手の技量などによって、細かく調整」していくのだが、「クロスカントリーの場合、自分の板は自分でワックスするのが当たり前だった」こともあり、ワックスマンを専門にすることに戸惑いはなかったという。
 そして当時、竹原さんは特別養護学校で勤務していたこともあり、日本大学スキー部の先輩で「ワックスサービスマン」を務めていた井上浩史さんに長野パラリンピックのクロスカントリーチームのワックスマンとして誘われ、その役を任されることになった。

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