「その監督、何年目?」で占うJリーグ。2014シーズンの覇権は誰の手に

川端暁彦

「2014Jリーグキックオフカンファレンス」に集まったJ1全18チームの監督たち。前列中央は村井チェアマン 【スポーツナビ】

 3月1日、2014シーズンのJリーグが幕を開ける。この日本のプロサッカーリーグは、世界的にもまれな戦力拮抗(きっこう)リーグ。その行方を読むことは、今シーズンも難しい。今回はこの新シーズンを占うにあたって、J1チームを率いる「監督」にフォーカスしてみることにした。視点は「その監督、何年目?」である。

実績の1年目

 就任初年度。絶望的に戦力を欠くチームに「救世主」として迎えられた指揮官が大変なのは言うまでもないが、実績あるクラブの新監督というのも、それはそれで大変なものである。ましてやJリーグは戦力拮抗のリーグ。一歩間違えれば一気の降格が待っていることは、新監督を迎えた途端にJ2へと転落していった一昨年のガンバ大阪など、多くの先例が物語る通りである。

 これほど落ちるのが簡単なリーグもなかなかないので、新監督で冒険をしたがるフロントは少ない。その選考に当たって重視されるのは「実績」。特に日本人監督に、新たな椅子が回ってくることはまれである。
 今季のJ1・18クラブの内、新監督を迎えたのは5クラブ。その内2クラブが日本人監督を迎えているが、いずれもJリーグでの十分な経験値を持つ指揮官だ。

 一人目は名古屋グランパスの新指揮官として就任した西野朗監督。かつてG大阪で長期政権を築いた男を、名古屋のフロントは三顧の礼で迎え入れた。今オフはDF増川隆洋(→ヴィッセル神戸)、阿部翔平(→ヴァンフォーレ甲府)、田中隼磨(→松本山雅)、MF藤本淳吾(→横浜F・マリノス)と主力選手を大幅にカットするリストラ策を敢行。新監督のために更地を作るかのごとき大胆な施策に踏み切っている。西野監督は3バックの新システムや矢野貴章の右サイドへのコンバートなど、さまざまな試行を重ねているようだが、チームの仕上がりが遅れるのはもはや必然。そして、覚悟の上だろう。結果が二の次とは口が裂けても言わないだろうが、いきなり結果が出るような状態とも思えない。特にディフェンスラインは特別指定選手の大武峻(福岡大学在学)をいきなり起用するのではと思われるほどの層の薄さである。

 もう一人は大宮アルディージャが迎えた大熊清監督である。かつてFC東京(前身の東京ガスFC含む)の指揮官として、あるいはU−20日本代表を二度にわたって指揮した人物として記憶されている方も多いだろう。2011年にJ2だったFC東京を優勝に導きJ1に引き上げて以降は前線から身を引いてテクニカルディレクターとしてクラブを支えていたが、そこは根っからの現場肌。会場で話していても常に「現場欲」のようなものが感じられており、今回の就任にも驚きはなかった。昨季の大宮は首位快走の高みからいつもの残留ラインすれすれの順位へと崩落するジェットコースターのようなシーズンを送ったが、この指揮官の持ち味は堅牢さ。その再現は考えにくい。U−20代表監督時代の教え子である元日本代表MF家長昭博を招いたが、下平匠(→横浜FM)が抜けた左サイドバックなど陣容は少々薄め。阪南大学卒の新人MF泉澤仁など若手選手の活用に期待したい。

 グラハム・アーノルド(ベガルタ仙台)、マッシモ・フィッカデンティ(FC東京)、ランコ・ポポヴィッチ氏(セレッソ大阪)と3人が新任となった外国籍監督では、フィッカデンティが注目だろう。日本代表を率いるアルベルト・ザッケローニ監督と同じイタリア人であり、イタリア人としては初のJリーグ監督。ザッケローニ氏が示唆している「イタリア人と日本人の相性の良さ」が本当かどうかを確認する好機会となりそうだ。イタリア・セリエAの経済基盤が瓦解しつつある現状を思うと、彼が成功するようならばJリーグでイタリア人監督のブームが到来しても不思議はない。日本を代表するタレントを並べながらリーグ戦での結果が付いてこなかった青赤軍団・FC東京が、この新指揮官の下でまとまるかどうか。それは今季全体を占う意味でも大きなポイントとなりそうだ。

 今季全体という意味では、ウルグアイ代表FWディエゴ・フォルランを迎えたC大阪を率いるポポヴィッチ新監督の采配も注目だ。欧州トップリーグでの実績には乏しい同監督がフォルランをうまく「使える」かどうか。夏場に欧州への戦力流出も考えられるクラブだけに、監督の用兵は重要なポイントとなる。

苦心の2年目

 2年目の監督は、かつて鹿島アントラーズで3冠を為し遂げたトニーニョ・セレーゾ(鹿島)と清水エスパルスで長期政権を持続していた長谷川健太(G大阪)の2名だ。共に実績十分であり、セレーゾ監督は就任1年目の昨季に上位を争い、長谷川監督はJ2を力強く制して1年でのJ1返り咲きを果たした。

 だが今季はどちらも苦しい戦いになるかもしれない。前者はついに開花した大迫勇也という希代のストライカーを欧州移籍という形で喪失。後者は点取り屋として目覚めた宇佐美貴史というこれまた日本を代表するタレントを負傷離脱という形で開幕前に失ってしまった。その穴を埋めてこそ名将と言うのは簡単だが、実際にはなかなか難しいものがある。

 プレシーズンでの試合ぶりを見る限り、特に深刻なのは鹿島か。守備貢献度の非常に高いFWだった大迫から、守備の期待できないダヴィらを軸にすることによる攻守のバランシングに苦心しているように見える。シーズンを戦いながらバランスの最適解を模索することになりそうだ。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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