12年目の“1年生”鶴岡がもたらす相乗効果=鷹詞〜たかことば〜

田尻耕太郎

ベストメンバーの初戦、「8番捕手」は鶴岡

日ハムからソフトバンクへFA移籍した鶴岡慎也。12年目の“1年生”がチームに刺激を与えている 【写真は共同】

「え? 何すか、あのオーダー。マジじゃないっすか……」
 2月22日、宮崎アイビースタジアムで行われたオープン戦、福岡ソフトバンク対埼玉西武。プレーボール直前のベンチ裏で西武の捕手・炭谷銀仁朗が思わず愚痴をこぼした。ソフトバンクはオープン戦初戦から“開幕”を思わせるメンバーを揃えてきた。1番から3番は昨年同様に中村晃、今宮健太、内川聖一が並び、4番には移籍の李大浩が堂々座った。5番は昨季首位打者の長谷川勇也、下位打線にも松田宣浩、柳田悠岐、本多雄一と豪華な名前が並んだ。まさに強力すぎるラインナップの完成だ。

 だが、それよりも注目なのは「8番捕手」だった。
 今季のソフトバンクには、リーグを代表すると呼ぶにふさわしい捕手が2人いる。1人目は昨季までの正捕手、34歳の細川亨だ。過去に2度ずつベストナインとゴールデングラブ賞を獲得している。ソフトバンク移籍後3年間は故障に泣かされることが多く昨季112試合に出場したのが最多で、それまでの2年間は100試合を下回った。
 そして2人目、今季ソフトバンクが獲得したのが、日本ハムからフリーエージェントとなったプロ12年目、32歳の鶴岡慎也だ。鶴岡もまたベストナイン(12年)とゴールデングラブ賞(09年)の実績を持つ。

 22日の西武戦、スタメン起用されたのは、鶴岡だった。FA戦士はその期待に応える見事な活躍。先発投手の大場翔太はこのキャンプ中で決して調子は良くなかったが、「試合前のブルペンでもカットボールを置きに行ってしまう傾向があったのを、『ボールになってもいいから腕を振る意識をもっていこう。そうすれば次に投げる球にも生きてくるから』とアドバイスしてもらい、その結果攻めの姿勢で投げることができました」(大場)と能力を導き出して4回1安打無失点の好投に繋げた。さらに3回の守備では二盗を阻止する抜群のスローイングを見せ、打撃でもヒットを放ったのだった。

長年の夢だった地元球団でのプレー

 鶴岡は鹿児島県出身。ソフトバンクでのプレーは、胸の中に温めていた夢だった。
「子供の頃からたくさん試合を見てきた球団。ファイターズに入団し北海道に住んでも、ホークスと対戦するときは自分の中に特別な感情がありました。チャンスがあればホークスのユニホームを着たいと思っていました」

 鹿児島・樟南高では2度甲子園に出場するも声は掛からず。一方で県内出身の同級生には川崎宗則(現ブルージェイズ)がいる。川崎はドラフト4位でダイエー(現ソフトバンク)から指名を受けた。
 以下、川崎の回想である。
「ドラフトの日、元々僕のところに誰も新聞記者は来ていませんでした。みんな樟南の鶴ちゃん(鶴岡)のところ。それくらい彼の方が有名だったし、僕は無名でした」
 鶴岡も「僕も地元スポーツ紙には名前が挙がったんですけどね」と振り返る。高校卒業後は三菱重工横浜へ。02年、ダイエーの入団テストを受験も無念の不合格。その後、日本ハムのテストを通過してドラフト8巡目指名でようやくプロ入りを果たしたのだった。
 1軍デビューまでは3年かかった。翌年から出番を増やし、昨季までの11年間で通算767試合に出場した。「まさか自分が10年以上現役でプレーできるとは思っていなかったし、ましてやFA権を行使して移籍することになるなんて」というのは心底本音だろう。

秋山監督も期待 至高のライバル関係

自主トレでキャッチボールする細川。キレ味を増して、開幕へ向かう 【写真は共同】

 同一リーグのレギュラー捕手の加入はソフトバンクにとって大いにプラスとなるはずだ。まず恩恵を授かったのが若手投手の千賀滉大。昨季51試合に登板して大ブレークした右腕だったが、日本ハム戦では3敗(全4敗中)を喫し対戦防御率も4.50と振るわなかった。
「オールスターで話したこともあったので、鶴岡さんが西戸崎の室内練習場に最初に来られた時に球を受けてもらって、その後に自分のクセを教えてもらいました。球種がバレていたので、さっそく修正しました」(千賀)

 キャンプでも「数多く投手の球を受けたい。打席で見るのと、捕手として見るのはやはり違いますから」と話し、精力的にブルペンへ走った。
「このキャンプ、1カ月間早かったですね。今までにない緊張感の中で過ごしたからでしょうね。今年は自分の調整よりも、まずは自分のことを知ってもらうことを第一に考えました。でも、元々同じリーグでプレーしていたメンバーなので溶け込むのに苦労はしませんでした」

 秋山幸二監督は起用方針をまだ明かしていない。チーム内の競争は大歓迎。「俺もキヨ(清原和博)が何本サク越えしたって聞いたら、負けずに打とうと思ったもんな〜」と自身の懐かしい話しも披露しつつ、刺激し合う関係を望んだ。ライバルとなる細川も昨季から4キロほど体を絞り、体のキレ味は明らかに昨季以上だ。

 優れた捕手がいるチームは強い。それが野球の常識である。超大型補強をしたソフトバンクにあって、鶴岡は3年ぶり日本一へのキーマンとなる。

<了>
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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