戦力の好循環でリベンジを果たした広島=ゼロックス杯 広島対横浜FM

宇都宮徹壱

躍動した19歳コンビ、失速した横浜FM

後半に入ると、徐々に失速した横浜FM。中村も本来の輝きを放つことはできなかった 【写真:AP/アフロ】

 思わぬ形で失点した横浜FMは、すぐに態勢を立て直して反撃にかかる。前半18分、齋藤学が左サイドからドリブルで2人をかわしてクロス。逆サイドに走りこんでいた藤本は、完全フリーだったにもかかわらず、これをわずかに外してしまう。齋藤のドリブルは、特に前半において相手に脅威を与え続け、ミキッチが守備のフォローに回らなければならないほどであった。広島は守勢に回る時間帯が増え、29分には清水航平が負傷退場(山岸智と交代)するアクシデントにも見舞われた。

 しかし横浜FMは、優位に立っているように見えるものの、チャンスの数はそれほどでもない。この点についてチームを率いる樋口靖洋監督は「去年と比べて広島は、全体よりも前から守備をしている印象」と語っている。実際、広島の森保一監督は選手に対して「相手がボールを持ったら、ファーストディフェンダーがアプローチして連動して守備をすること」を求めていた。そのため、相手が自陣でボールを保持していても、前述の藤本のシュートシーンとセットプレーを除いて、ピンチらしいピンチはほとんどなかった。

 後半に入ると広島の攻撃が活性化し、相手陣内でテンポよくパスが回るようになる。後半5分には、右サイドからドリブルで持ち込んだミキッチの低いクロスに佐藤が反応するも、GK榎本哲也がファインセーブ。その2分後の青山のシュートは、一瞬追加点かと思われたがオフサイドの判定。それでも、流れは明らかに広島に傾いていた。後半14分、広島は佐藤を下げて2年目19歳の浅野拓磨を投入。その1分後には、横浜FMもドゥトラと端戸仁に代えて下平と矢島の新加入組をピッチに送り出す。いずれも「この先」を見据えた選手交代のように思われたが、結果を出したのは広島の方だった。

 後半21分、自陣で塩谷司、青山敏弘とつないでから、野津田から長いスルーパスが出る。前線の浅野は、確信をもってダッシュしてディフェンスラインの裏をとり、右足ワンタッチで待望の2点目を決めた。「野津田がボールを持った瞬間に目が合った」という浅野と「彼が裏に抜ける動きはいつも見逃さないように意識していた」という野津田の19歳コンビによるゴールによって、試合の行方は決した。

 対する横浜FMは、プレーのキレと精度が目に見えて失われていった。キャンプでは大雪の影響で思ったような調整ができず、「ほとんどの選手が練習試合で90分をやれていない」(端戸)という状況。こうなると、劣勢を挽回するのは極めて難しい。4分間のアディショナルタイムを経て、ついにタイムアップ。広島はゼロックス杯で2連覇を果たすとともに、森保体制となって初めて、公式戦で横浜FMに勝利した。

ドゥトラにこだわった樋口監督と、若手を使えた森保監督

 試合後の会見。横浜FMの樋口監督は「フィジカルを上げきれていなかったこと」を第一の敗因に挙げていた。また、この試合で精彩を欠いていたドゥトラの起用については「下平(をスタメン起用する)という選択肢もあったが、広島に対して昨シーズンの(戦い方の)理解度があったし、トレーニングで徐々に(フィジカルが)上がりつつあった」としている。だが、結果は裏目に出てしまったと言わざるを得ないだろう。

 そもそも、今年41歳になるドゥトラに多くを期待するのは、いささか酷な話ではないだろうか。昨シーズンから指摘されてきたコアメンバーの高齢化は、ACLを戦う今季はさらに重くのしかかってくるはずだ。もっとも、新加入の選手たちについては「パフォーマンスは評価できる」(樋口監督)ということなので、今後はいかに彼らをコアメンバーに融合させ、戦力のオプションを増やしていけるかがテーマとなりそうだ。

 そうして考えると「戦力のオプション」という面においても、この日の広島は横浜FMを上回っていた。「(野津田と浅野は)これまでのトレーニングでもトップチームでプレーできるだけのことは見せてくれていたので、今日の試合も思い切って使うことができました」と森保監督が語れば、今季からキャプテンを務める青山も「誰が入ってきても、それぞれの持ち味を出しながら違和感なくプレーできている。3連覇を目指すからには、若い選手がどんどん出てきてもらなわないと困る」と言い切る。

 毎年、オフになると恒例のように主力選手を引き抜かれている広島だが、戦力の好循環は今季も健在だ。日本代表GKの西川が抜け、中盤のキープレーヤーである森崎兄弟と高萩が不在、得点源である佐藤も後半14分で退いた。にもかかわらず、これまで苦手としていた横浜FMに完勝できたのである。林や柴崎といった新戦力は、想像以上に広島のサッカーにフィットしていたし、野津田や浅野といったティーンエイジャーの選手たちも、先輩たちに遜色ないプレーを見せて勝利に大きく貢献した。広島のサポーターにとっては、その事実こそが、この日一番の収穫だったのではないだろうか。

 かくして今年のゼロックス杯は終了。両チームは、すぐにACLでの戦いに臨まなければならない。25日、広島はホームで北京国安と、横浜FMは26日にアウエーで全北現代と対戦する。対照的なこの2つのクラブが、今季のハードな日程をどのように戦い抜くのか、そして次に両者が対戦する時には、どんな白熱したゲームを見せてくれるのか。冬の寒さに震えながら心待ちにしていた新シーズンの開幕まで、もう間もなくだ。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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