惨敗の日本勢、強化体制の幹作りを=寺尾悟のショートトラック総括
歯を食いしばり、レースに臨む坂下 【Getty Images】
日本は男子の高御堂雄三、坂下里士(ともにトヨタ自動車)、坂爪亮介(タカショー)、女子の酒井裕唯(日本再生推進機構)、伊藤亜由子(トヨタ自動車)、清水小百合(中京大職)、桜井美馬(東海東京証券)がレースに出場したが(菊池萌水は出場せず)、個人では坂下の男子500メートルの9位が最高位で、期待された女子3000メートルリレーは5位に終わった。
今大会の日本勢の戦いについて、1994年のリレハンメル五輪から2006年のトリノ五輪まで4大会連続出場を果たし、世界選手権では金2個を含む10個のメダルを獲得した、現在トヨタ自動車スケート部監督を務める寺尾悟さんに総括してもらった。
女子のリレーは「負け癖がついてしまっていた」
一言で考えるのは難しいですね。いろいろなことが重なって出た結果だと思います。ただ前半がスロースタートでした。最終日に2人が予選を勝ち上がり挽回しましたが、少し遅かったです。
当然、今回は女子のリレーが一番有力だったと思うのですが、そこで取れなかったのが流れ的には悪かったですね。
ただ女子のリレーは昨年の世界選手権で銅メダルを取りましたが、今季のワールドカップ(W杯)では思うような結果が出せていませんでした。調子が良い時は、ランキングも上がり、当然組み合わせもやりやすくなります。でも(結果が出せていない)その流れのまま、五輪を迎えてしまいました。
――実際、女子のリレーは期待されていましたが、個々の力という点で考えるとどうだったのでしょうか?
もちろんリレーは単純には言えませんが、各国の力は500メートルと1000メートルを足したようなランキングになります。女子のリレーというのは大体4タッチ、5タッチぐらいで終わるため、距離が短く、どちらかというとスプリント的な要素が強いです。その辺りで、酒井が1000メートルの予選を1本通過しましたが、あとは500メートルも含めて誰も予選を通過できませんでした。
リレーは日本の得意な緻密さ、技術的な要素が増えるのですが、やはり個々の力的なものを加味した時に、少し実力が足りていなかったと思います。
あとチームとして負け癖がついてしまったのかも知れません。勝っている時は、勝ち方が分かるのですが、1度負け込んでしまうと、どうやって勝ったらいいのか、勝つ要因が見つけづらいというのも正直あると思います。五輪前に何かきっかけがあれば、もう少し変わっていたかもしれません。
総合的な力か、スペシャリストか――議論が必要
世界との差は、一概にスピードだけじゃ測れないと思います。例えば、今回のコースの氷は厚く、水が多く、普段練習しているリンクよりも氷にかかる抵抗、氷の柔らかさが、あまり日本にはないタイプでした。そのため、単純に速いラップタイム、今回だと8秒3や4が出ていましたが、同じスピードでも普段と感じ方が異なっていたと思います。
また五輪は普段の試合と違い、今日のレースのように準々決勝から始まります。普段は必ず予選などで順に勝ち上がって上位に行くのですが、今日はベスト16が出そろった状態で1本目が始まり、最初から100の力を出さないといけないんです。なかなか普段は無いことなので、いつもより足に疲労がきてしまったり、疲れ方が違ったりすることがあります。
そういうこともあり、五輪で戦う難しさ、日程面でも5日間に分かれて、3日ずつ開催するというのは独特です。選手はイメージしようとしても、実際にやってみないと分からないということが多いです。
――強化という視点ではいかがでしょうか? 同じく坂下選手は「もっと500メートルに専念したかった」と話していましたが?
それは五輪の選考方法にかかわってくると思うのですが、まずはリレーと言うのがあります。リレーで戦える選手が必要となった時に、1500メートルが速いだけじゃダメですし、500だけ速くてもダメということもあります。
極端な話、個人種目しかないと仮定できれば、スペシャリストを選出するのは当然だと思いますが、リレーの選手で考えると、総合的な力を持つ選手で組みたいというのはあります。
――それはリレーなら日本チームでも勝てる可能性があるから?
そこは単純にチーム数と出場数が全然違いますので。個人だと、五輪予選会でも70〜80人出ているわけですよ。そこから絞られていきますが、リレーは絶対的に出場チームが少ないので、単純に狙い目としてはあります。
ただ今回の結果を受けて、やっぱり総合的なものを取るのか、スペシャリストを育てて個人種目で勝てる選手を選ぶのかというのは、議論は必要かと思います。何もなしというのは、ないと思います。