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日本ジャンプが抱える『防風ネット』問題
世界で勝つため、船木和喜氏が提言
船木さんは日本ジャンプ強化のため、防風ネットの設置を訴える。ソチ五輪のジャンプ台(写真)には左側に白い暴風ネットが備え付けられていた
船木さんは日本ジャンプ強化のため、防風ネットの設置を訴える。ソチ五輪のジャンプ台(写真)には左側に白い暴風ネットが備え付けられていた【Getty Images】

 ソチ冬季五輪のジャンプ競技は、現地時間17日の男子ラージヒル団体を最後に終了した。今大会、日本は葛西紀明(土屋ホーム)がラージヒル個人で銀、ラージヒル団体で銅と2つのメダルを獲得した。金メダルには手が届かなかったが、自国開催の1998年長野五輪以来、16年ぶりのメダルに沸いた。長野以降、ルール変更の影響もあって長く低迷していたが、ようやく復活の第一歩を踏み出した。


 日本ジャンプ陣が今大会でつかんだ収穫と課題は何か。長野五輪で金メダルに輝き、38歳となった今なお現役として飛び続ける船木和喜さんに総括してもらった。船木さんの熱を帯びた解説は、今大会だけにとどまらず、日本ジャンプ界が長年抱える『防風ネット』問題に及んだ……。

日本ジャンプ界に起こる負の連鎖

――日本ジャンプ陣がソチ五輪で得た収穫は?


 16年間取れなかったメダルを取れたということは、世界との差を縮めることができたと言っていいと思います。その証拠をメダルという形で残してくれました。私も含めて、ソチ五輪の代表から漏れた、すべての選手にとっても大きな励みとなります。特に、個人だけでなく団体でメダルを取れたことは、日本全体のレベルが上がっていることの証しであり、「自分たちもレベルが上がっているんだ」ということを、あらためて認識させてくれました。


 今後、日本の選手の士気はますます上がると思います。目標とするメダリストが目の前にいるわけですから。これで目標設定の際の基準ができましたよね。しかも世界で勝つための基準が。ソチ五輪を境に、日本のレベルがさらに上がることが期待できると思います。


――一方で、見えた課題はありますか?


 団体で日本を上回った2カ国との差ですね。日本はどちらかというと、1人に頼るのではなく平均値が高いと言われています。しかしドイツ、オーストリアはそれよりもさらに高い平均値をたたき出してきました。徐々に点差を引き離された結果、最終的にはドイツと16.2点、オーストリアと13.5点の差がつきました。一人一人は少しの差ですが、積み重なれば大きな差となって表れます。日本がレベルアップしているとはいえ、まだ追いついたとは言えません。引き続きの課題です。


――その差を埋めるめにはどうすればいいですか?


 ひとつは気象条件に合わせたジャンプができるかどうか。そこはジャンプ台と風の関係があって、スキー連盟や国にバックアップしてほしいところでもあります……。というのも、日本のジャンプ台には風除けとなる防風ネットが設置されておらず、風によって練習が制限されることが多いのです。日本は多様な風が吹くため、風そのものへの対応という意味では適していますが、風が強すぎるのです。強風だとケガの確率が高まるので、ジャンプ台が閉鎖される。そうなるとジャンプの本数が飛べず、技術が磨けない。日本のジャンプ界にはこうした負の連鎖が起きています。


 例えば、ソチ五輪のジャンプ台は向かって左側に防風ネットを設置していました。これは風に影響されず、競技をきちんと進めるため、競技者の公平を期すため、と言われています。もし日本でも防風ネットを採用すれば、風の遮断はもちろん、対応力を身につける、という点でも効果を発揮するでしょう。現在は横風、追い風が強いと練習は中止です。ただ、それでは風への対応ができません。防風ネットがあれば、危険な横風を遮断することができ、追い風でも安全に練習できます。風に対するトレーニングの微調整が可能となり、先ほど話したように、気象条件に合わせたジャンプに取り組めます。


 海外では防風ネットが標準装備されていますが、日本はなぜか手付かずです。日本選手の誰もが願っていても、長野五輪以降、何も変わっていません。こうした制限された環境下で、選手たちは努力してレベルアップを遂げてきました。でも、その上にまだ2カ国います。その差を埋めなければいけない。では何をすべきか。ジャンプ台の風対策に乗り出し、十分に練習できる環境、飛べる環境を作ることではないでしょうか。スキー連盟、国が気づいて、そこを変えてもらえれば……。環境さえ整えば、必ずジャンプ界全体が底上げされます。


――今後も世界と渡り合うには、若手の台頭が必要不可欠です


 まさにそうです。懸念されるのはジュニア選手の育成です。私たちベテランは経験値があるので、風に対して技術で対応できます。しかし、若い選手は飛ぶ本数をこなさなければ経験値が上がらないため、現状のままでは技術の引き出しを増やすのに時間がかかります。今回、20歳の清水礼留飛くんが若手と言われていましたが、世界的に見れば20歳は中堅です。過去の五輪では、16歳で3冠を達成したトニ・ニエミネン(フィンランド)という選手がいたように、10代でも活躍する選手がたくさんいます。


 防風ネットで環境を整えることは、若手育成の観点からも重要で、いわば日本ジャンプ界の未来に投資をするようなものです。今回のメダル獲得を機に、ジャンプ競技は長野五輪以来の注目を集めています。それだけに、一人でも多くの人が今、ジャンプ界が抱える問題に気づいてくれれば、と切に願っています。


<了>


船木和喜

1975年4月27日、北海道生まれ。98年長野五輪に出場し、個人ラージヒル、団体ラージヒルで2つの金メダル、個人ノーマルヒルで銀メダルを獲得した。世界選手権、スキーフライング世界選手権、スキージャンプ・ワールドカップなどでも数々のタイトルを獲得。低く鋭い踏み切りから繰り出されるジャンプフォームは「世界一美しい」と称された。現在も現役を続けながら、後進の指導にもあたっている。

構成:スポーツナビ

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

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