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風に泣いた高梨沙羅、テレマークに課題も
船木和喜のジャンプ解説
風に泣かされた高梨。悪条件の中、最善は尽くしたが、メダルには届かず。試合後は涙を浮かべた
風に泣かされた高梨。悪条件の中、最善は尽くしたが、メダルには届かず。試合後は涙を浮かべた【写真は共同】

 ソチ冬季五輪のノルディックスキー女子ジャンプのノーマルヒル決勝が現地時間11日に行われ、高梨沙羅(クラレ)は2本合計243.0点(1本目=100.0メートル/124.1点、2本目=98.5メートル/118.9点)で4位に終わり、メダルを逃した。

 世界ランク1位、ワールドカップ最多勝記録保持者、金メダル最有力候補の“絶対女王”に何が起こったのか……。1998年長野五輪でジャンプ金メダルに輝いた船木和喜さんに聞いた。

金メダリストと同じ条件で飛んでいれば……

――高梨選手は4位という結果でした


 高梨選手もチームも最善を尽くしたと思います。では、何が問題かというと、「風」ですね。高梨選手はウィンドファクター(風の条件でもらえる得点)で1本目が3.1点、2本目が1.9点で合わせて5.0点でした。これは不利な追い風だと加点、有利な向かい風だと減点されます。高梨選手は5.0点加点されており、出場30選手の中でも2番目に高い数字です。これはつまり、いかに悪い条件で飛んだかを意味します。金メダルのカリーナ・フォクト(ドイツ)は1本目が−2.2なので、向かい風で飛んでいます。もし高梨選手が同じ条件で飛んでいたら、フォクトの103メートルを上回る105メートル以上の記録が出たかもしれません。


 ジャンプの内容は良かったです。むしろ、彼女が高い技術を持っているから、悪条件の中でも100メートル飛べたと言えます。ウィンドファクターが3.1点ということは約0.5メートルの追い風で飛んでいることになります。仮に風速ゼロ、ウィンドファクターの加点も減点もない状況であれば、確実にヒルサイズ(=106メートル)に届いていると思います。風はそれくらいの影響があるので、非常に悔しいですね。ただ、自然を相手にした競技ですから、彼女は風のせいにするようなことは言いません。あくまで自分が悪かったと考えていると思います。


――チームの判断はどう見ますか?


 今回は風の向きが刻一刻と変わり、強弱もありました。ゲートを下げるかどうか、判断が難しい状況だったと思います。最終的には2本目で100メートルに行かなかったので、ゲートを下げなくて正解でした。ゲートを下げると加点されるんですが、その場合はヒルサイズの95%以上を飛ばないといけません。今回で言えば、約100メートルです。結果的には、あの条件で飛んで100メートルに届かなかったということは、ゲートを下げるとさらに飛距離が出ないので、加点されません。チームの判断は正しかったと思います。


――ソチに入ってから、納得のいくジャンプができていなかったようですが、その影響は?


 彼女はワールドカップを転戦してきましたが、そこではずっとトップを走ってきて他の選手とは差がありました。その差が一気に縮められたんです。五輪に合わせた調整、仕上がりが順調にいったことによって、周囲のレベルが上がりました。高梨選手はずっと好調を維持していたので、その差が詰まったことにちょっと不安を覚えたのかもしれません。本人の技術的なことは変わってないんですけど、それが「調子が悪い」という発言になったんだと思います。そうした中、今回は対応力の高さで4位につけました。本当に調子が悪ければ、もっと低い順位になっていたと思います。

技術的な課題はテレマーク

「技術的な課題はテレマーク」と船木さん。攻めた結果ではあるが、今後の課題として残る
「技術的な課題はテレマーク」と船木さん。攻めた結果ではあるが、今後の課題として残る【写真は共同】

――風以外に敗因を挙げるとすれば?


 1つ挙げるとすれば、テレマーク(着地の姿勢)を入れられなかったことでしょうか。テレマークを入れれば1人の審判で1.5〜2.0点が加点されます。5人の審判のうち3人が選ばれて最大で6.0点。これがジャンプ2本だと12.0点になります。もし加算されていればダントツの金メダルでした。


 ただ、これは攻めた結果でもあるので、難しいところです。テレマークを度外視して攻めたから、悪条件の中でも100メートルを飛べました。もしテレマークを重視していたら100メートルに届かなかったでしょう。もちろん、本人は1メートルでも遠くへ飛びたいという攻めの姿勢があった上で、さらにテレマークを入れることも考えていたと思いますが。最終的にテレマークを入れられなかったことは、今後に向けての課題です。風の影響が多分にある中、あえて技術的なことを挙げるとすれば、その点ですね。


 結果だけで言えば、メダルを取れなかったのは事実なので、大きな課題を残したということになります。でも、17歳という年齢、今後の伸びしろを考えると、課題がある方が将来は楽しみです。


――高梨選手に言葉をかけるとすれば、どんなことを?


 大きな賭けをして攻めた結果なので、本人にとっては、満足した失敗、課題が見つかった失敗だと思います。中途半端に安全に飛んで結果が出なかったより、攻めた結果の失敗なんだから、何も気にせずにそれを課題として先に進めばいいんじゃない、と言いたいですね。金メダルは取れなかったですけど、彼女は世界ランク1位ですから。評価は変わりません。


<了>


船木和喜

1975年4月27日、北海道生まれ。98年長野五輪に出場し、個人ラージヒル、団体ラージヒルで2つの金メダル、個人ノーマルヒルで銀メダルを獲得した。世界選手権、スキーフライング世界選手権、スキージャンプ・ワールドカップなどでも数々のタイトルを獲得。低く鋭い踏み切りから繰り出されるジャンプフォームは「世界一美しい」と称された。現在も現役を続けながら、後進の指導にもあたっている。

構成:スポーツナビ

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

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