川澄奈穂美が初の海外移籍を決めた理由 日米デュアル・キャリアという新たな潮流

江橋よしのり

1シーズンに2つのリーグでプレー可能

女子サッカー、米プロリーグNWSLのシアトル・レインに期限付きで移籍が決まり、記者会見する川澄奈穂美=11日、神戸市 【共同】

 サッカー女子日本代表・なでしこジャパンの川澄奈穂美が2月11日、アメリカ女子プロリーグ・NWSL(National Women‘s Soccer League)に所属するシアトル・レインFCへの期限付き移籍を発表した。シアトルとの契約期間は3月1日から8月31日までの半年間。NWSLの開催期間は春〜夏と短いため、9月以降はINAC神戸に復帰してプレーすることになる。

 彼女が旅に出る理由。それは実に明快で、かつ、深い。

「1シーズンに2つのリーグでプレーできることと、(昨季まで欧州クラブなどに所属していた)アメリカ人選手たちが女子ワールドカップ(W杯)北中米予選を控え、自国のリーグに戻ってくる年だったことが、アメリカを移籍先に選ぶ大きな決め手になりました」

 近年、日本の女子選手の移籍先は、ドイツをはじめフランス、イングランドなど欧州が中心だった。「欧州へ行けば女子チャンピオンズリーグがあり、男子の最高峰のサッカーをリアルタイムで観戦できるなどの利点もあったと思います」と、川澄も一定のメリットがあることを理解していた。それでも「日本が好きですし、日本の中で成長したいという気持ちもあります」と語る川澄は、日米でのデュアル・キャリアを歩む道を選んだ。

レベルの差ではなく、異質を求めて

 川澄自身、初の海外挑戦となるが、「なでしこリーグよりも高いレベルの場所に行く、という感覚とは違います」と本人は言う。海外への移籍は、時に「修行」や「出稽古」のようなニュアンスで伝わったり、「より良い環境を求めて日本を脱出する」かのように受け取られたりしがちだが、川澄が意識しているのはそうではない。いわばメイド・イン・ジャパン製品の「輸出」に似た側面だ。

「なでしこリーグにはなでしこリーグの良さがあり、アメリカにはアメリカの良さがあると思います。どちらが上かではなくて、異なる性質を持っていると言えると思います。ですから、アメリカでは今までと違った経験ができると期待していますけれど、ただアメリカらしさを学ぶだけのつもりはなく、日本の良さを見せつけたいという気持ちもあります。私自身、日本国内でプレーしていると、スピードを特徴に挙げてもらえることが多かったのですが、世界に出れば相手をぶっち切れるほどではありません。アメリカでは、日本人選手の特徴であるアジリティ(俊敏性)や頭を使った駆け引きで優位に立つプレーで、チームにいい影響を与えられるようにしたいと思っています」

 この言葉の背景に、川澄が抱く向上心の本質が見える。それは、これまで日本国内でも日々、磨かれ続けてきた。もし今季も引き続き日本にとどまっていたとしても、世界を見据えて取り組む姿勢は変わらなかっただろう。

「これまでも世界を意識してきました。とはいっても、日本人の中でやるのと、アメリカ人の中でやるのとでは、(得るものに)違いがあると思います。それをこれから経験しに行きます」

 学ぶ姿勢を持ちつつ、それでいて異国のサッカーに染まらず、ジャパン・クオリティで勝負に挑む。半年後、川澄はどのような手応えをつかみ、われわれにどのような言葉を伝えてくれるのか。早くもその日が楽しみだ。

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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