“勝負の鍵”4回転ジャンプ特有の難しさ 本田武史が語る男子フィギュア展望・後編

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毎日跳んでいる選手でもたまに迷子になる

4回転ジャンプで一番重要なのは高さ。チャン(写真)のジャンプは羽生、フェルナンデスとともに頭ひとつ抜けているという 【Getty Images】

――4回転ジャンプを跳ぶにあたり、どういった点が重要になってくるのでしょうか?

 それが分かったら失敗しないですよね(笑)。まあ、微妙な気持ちの変化であったり、緊張感で4回転というのは崩れてしまうジャンプですし、毎日跳んでいる選手でもたまに迷子になってしまうジャンプであるというのは確かです。

――迷子になるとは?

 トリプルアクセルまでは何となく力で跳べてしまうジャンプなんですが、4回転は力だけじゃ跳べなくて、微妙で繊細な感覚というのが絶対に必要なんです。迷子になるというのは同じリズムで跳んでいるはずなのに、回転しなくなったり、全然リズムが合わなくなったりと、そういうことですね。「昨日まで跳べていたのに、なぜ今日は全く跳べないんだろう」というときもあります。トリプルアクセルまでは何とかいけると思うんですけど、4回転はそうはいかない。

――精度を上げるために、選手たちはどうするべきなのでしょうか?

 調子が良い日でも悪い日でも跳べるようにしないといけないですよね。本番で100点の演技ができるかといったら必ずしもそうではないので、どの試合においても50点の状態でも跳べる4回転ジャンプを作らなければならない。それが成功率を上げる方法かなと思います。

――ロシアは、若手からベテランまで4回転ジャンプをコンスタントに跳べている選手が多いように感じます

 4回転ジャンプに関して、ロシアは昔からすごく研究をしていたんだと思います。1998年の長野五輪のメダリストのなかで、4回転ジャンプを跳んだのはイリヤ・クーリック選手(ロシア)だけでした。その跳び方というのは、やはり持っているものが違うのかなと。僕も何回かロシアの選手に教えてもらったりしたんですけど、なかなか合わなかった。感覚的なことなので言葉では説明しにくいんですけど。それは小さいころから教えてもらわないとできないのかもしれません。ロシアはジュニアから育成していき、すごい選手が生まれている。それがずっと続いているので、今の強さにつながっているんだと思います。

4回転で重要なのは幅より高さ

――日本で今後4回転ジャンパーを多く輩出していくにはどのようなことをやっていけばいいのでしょうか?

 僕らの時代には跳んでいる選手が周りにいなかったので、映像で「この選手の、この跳び方をやってみよう」というモノマネから始まったんです。もちろん先生に教えてもらっている部分はあったんですが、自分の頭の中で「この選手のリズムで、こういう入り方をして」というのを、自分でやってみたりしていました。今はこれだけ4回転ジャンプが見られる時代になっている。それを参考にどんどんマネをして、自分の跳び方を見つけていけばいいんじゃないかと思います。

――羽生選手、高橋選手、町田選手が跳ぶ4回転ジャンプに違いはありますか?

 全員違いますね。羽生選手は高さと幅があって放物線を描くジャンパー。高橋選手と町田選手は上がって降りてくるジャンパーです。

――成功率を考えると一番重要なのは?

 高さですね。幅というのはぶれやすい。それをコントロールできるのは羽生選手しかいない。柔らかさと強さを持っていて、筋力があるんですけど柔らかい筋肉なので、バネのように使える。自然に飛距離を出している選手というのは彼しかいない。あと幅と高さで考えるとフェルナンデス選手とチャン選手が優れています。

――4回転ジャンプではその3選手が頭ひとつ抜けていますか?

 そうですね。素晴らしいというか、加点がもらえて、安定している3選手だと思います。

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